研究課題
挑戦的萌芽研究
トキソプラズマ原虫エフェクター分子ROP16は宿主転写因子Stat3に直接結合・リン酸化し、強く活性化する。Stat3の活性化は、胚性幹細胞(ES細胞)の未分化維持に必須であることから、ROP16をES細胞に発現させることによりES細胞の未分化を維持し、さらにROP16の発現レベルを調節することでES細胞の分化段階を調節するできると考えた。さらに、マウスのES細胞の未分化維持のためには液性因子であるLIFの添加が必須である。LIFはサイトカインであり、非常に高価であり、このことが幹細胞研究を進める上での大きな足枷となっている。本年度は、ROP16の発現を薬剤により制御できるベクターの開発を試みた。まずトキソプラズマ原虫には病原性の違いによりI型、II型、III型の3種類が存在し、最もROP16の活性化能が強いI型のROP16をクローニングした。次に、I型ROP16を過剰発現させた結果、ヒト細胞株のみならず、マウス細胞株においてもStat3の活性化(チロシン705のリン酸化)を確認することができた。次に、ドキシサイクリンに反応性のプロモーターをもつレトロウイルスベターにROP16をクローニングし、パッケージング細胞であるPlatE細胞に遺伝子導入し、ドキシサイクリン誘導型ROP16発現用のレトロウイルスを作製し、マウス細胞株に感染させた。その結果、ドキシサイクリン添加依存的にROP16の発現を誘導でき、さらにStat3の活性化も確認できた。
2: おおむね順調に進展している
ドキシサイクリン誘導性のROP16発現に成功したから。
2014年度は、作製したドキシサイクリン誘導性のROP16発現系を用いて、実際にマウスES細胞でROP16-Stat3経路が活性化するかどうかをまず検討する。次に、Stat3の活性化が確認された場合には、LIFを含まない培養液中でドキシサイクリン添加し、ES細胞が分化しないかどうかを検討する。またドキシサイクリンの添加により、外見上、ES細胞の未分化能が維持されている場合には、さらにテラトーマの形成による外肺葉、中胚葉、内胚葉系組織細胞への分化能を検討し、さらにマウス受精卵にES細胞をインジェクションし、キメラマウスの作製やそのキメラマウスのジャームライン突破能力を検定することで、生殖細胞への分化能を維持しているかどうかを検討する予定である。
今年度は安価にできる大腸菌を使った研究準備、及び 細胞株を使った研究を行ったために予算に余剰が生じた。しかし、次年度にはES細胞を培養するために大量のLIFを購入するために今年度の余剰分を充当することができ、従って、円滑な研究実施が期待できる。ES細胞未分化維持用のLIFの購入 ・・・ 1,500,000プラスチック器具類 ・・・ 500,000実験動物 ・・・ 784,322
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