研究課題
挑戦的萌芽研究
本研究は、寄生原虫トリパノソーマ類に存在するペルオキシソーム関連オルガネラ、グリコソームの起原とその進化プロセスを解明することを目的とする。グリコソームは、解糖系10酵素のうちの初段7酵素や他の代謝経路酵素群を含む。代謝経路のオルガネラ移行はミトコンドリアや色素体などの細胞内共生体に由来する代謝経路以外には見つかっておらず、その進化原理の解明はトリパノソーマの進化のみならず代謝経路の適応進化を理解する上でも重要である。本年度は、トリパノソーマ類と共通祖先を持つディプロネマDiplonema papillatumについて、ゲノム解読および解糖系酵素の分子系統解析(平成25年度)、およびペルオキシソーム局在タンパクの網羅的解析を実施した。予備実験で得られていたゲノム情報に加えて、さらにリードを増やしてゲノム情報を取得し、解糖系を含む糖代謝関連酵素遺伝子を同定した。ペルオキシソーム局在性タンパクは移行シグナル(PTS)を持つことが知られているが、D. papillatumは初段7酵素でトリパノソーマ類と同じタイプのPTSを持っていた(第6酵素グリセルアルデヒドリン酸脱水素酵素GAPDHを除く)。分子系統解析の結果、第3ホスホフルクトキナーゼPFK、GAPDH、およびホスホグリセリン酸キナーゼについて、D. papillatumとトリパノソーマ類の間で起原が異なることが明らかとなった。次に解糖系各酵素の組換え体に対する特異抗体を作製し、ウエスタン法で酵素の発現を調べたところ、初段ヘキソキナーゼおよびPFKが発現していないことが明らかとなった。予備実験から、D. papillatumが培地中のグルコースを消費しないことが明らかとなっているが、これはPFK活性が失われているためであると推定された。
1: 当初の計画以上に進展している
平成25年度に予定していたD. papillatumのゲノム解読および解糖系酵素の分子系統解析はすでに達成し、さらに解糖系酵素群のペルオキシソーム局在についても明らかになるなど、研究は格段に進んでいる。
これまでに得られた成果を踏まえ、D. papillatumのメタボローム解析や放射性同位体でラベルした基質を用いたトレーサー実験を行ない、解糖系のペルオキシソーム移行の生理的意義を解明する。
研究費の節約に最大限努めた結果、支出を押さえることができた。研究は極めて順調に進んでおり、次年度に予定しているメタボローム解析は外部受託の予定である。各種培養条件を変えてD. papillatumのメタボロームを複数回にわたって解析する必要があり、特に高額になると予想されるのでこれに充当する。
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