研究課題
本研究は、寄生原虫トリパノソーマ類に存在するペルオキシソーム関連オルガネラ、グリコソームの起原とその進化プロセスを解明することを目的とする。グリコソームは、解糖系10酵素のうちの初段7酵素や他の代謝経路酵素群を含む。代謝経路のオルガネラ移行はミトコンドリアや色素体などの細胞内共生体に由来する代謝経路以外には見つかっておらず、その進化原理の解明はトリパノソーマの進化のみならず代謝経路の適応進化を理解する上でも重要である。これまでの研究から、トリパノソーマ類を含むキネトプラスチダ類と共通祖先を持つディプロネマDiplonema papillatumは培地中のグルコースを消費せずアミノ酸を好適な炭素源としていること、解糖系第3酵素ホスホフルクトキナーゼ(PFK)の活性を持たないこと、PFKと解糖系第6酵素グリセルアルデヒド3リン酸デヒドロゲナーゼ(GAPDH)を除く解糖系初段5酵素がペルオキシソームに局在することを明らかにしてきた。本年度はD. papillatumゲノムの再解析と分子系統解析によって、D. papillatumが2つのPFK遺伝子を持ち、どちらもトリパノソーマPFKとは起源が異なることを明らかにした。すなわち、解糖系のペルオキシソーム移行はキネトプラスチダ類とディプロネマ類の共通祖先で起きたが、その後の進化の方向性は両系統で異なり、ディプロネマ類ではアミノ酸代謝を主体とする糖新生に依存したユニークな代謝基盤を確立し、キネトプラスチダ類ではグルコースを好適基質とする代謝基盤を確立したと考えられる。ディプロネマ類は最も豊富な海洋プランクトンの一群であり、またキネトプラスチダ類は多様な真核生物を宿主とする寄生生物であることを考慮すると、解糖系のペルオキシソーム移行は生物進化の可能性を大きく拡大した進化イベントであったと結論づけられる。
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