前年度までの研究では、細菌の産生する外膜小胞(outer membrane vesicle: OMV)を精製する方法について検討をすすめPEG沈殿法で簡便に回収できることが分かった。最終年度では、まずlipid Aのエンドトキシン活性(炎症応答誘導活性)を低減させる修飾酵素について解析を進めた。病原性大腸菌の持つlpxR遺伝子の産物は、アミノ酸配列の相同性から3’-O-deacylaseであることが想定された。そこで、lpxR遺伝子をクローン化し大腸菌に発現させた後、lipid Aを精製し、ヒト細胞に対する影響を観察した。その結果、lpxR遺伝子を導入した菌から精製したlipid Aは、lpxR遺伝子を持たない菌より精製したlipid Aに比べ、炎症応答誘導活性が大きく低下することが明らかとなった。一方、OMV表層にEHECやEPEC特異的な結合分子を発現させるためのプラットフォームの作成を行った。すなわち、単独分子で菌体表面に表出される蛋白質であるオートトランスポーターの一つYfaLの遺伝子を誘導可能なプロモーターの下流に融合し大腸菌に発現させた。実際にYfaLが発現誘導条件下で菌を培養すると菌体表層に発現することを確認した。さらに、EHECやEPEC表面に特異的に結合する因子として両菌種に共通の細胞付着因子intiminに特異的に結合するTirの利用可能生について検討した。すなわち、intimin結合ドメインをMBPトの融合蛋白質として産生させ、精製し、これがEHECやEPEC表面に特異的に結合することを確認できた。これらの結果より、炎症刺激の少ないOMVをEHECやEPECに特異的にターゲッティングできる手法の基礎的な準備が整ったと考えられる。
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