本研究の目的は、実験動物に感染する百日咳菌を作出することである。百日咳類縁の気管支敗血症菌のゲノムにはその広範な宿主域を成立させる因子が含まれると考えられる。そこで、気管支敗血症菌のゲノム断片を百日咳菌に導入することによってラットに感染可能になる百日咳菌を作出するため、サイズの大きなゲノム断片を挿入できるベクターの開発を行った。 1.pMIN136ベクターによるゲノムライブラリー作製 前年度に作製したpMIN136系ベクターを用いて気管支敗血症菌のゲノムライブラリーの作製を試みた。パルスフィールド電気泳動によって調製した気管支敗血症菌の長鎖ゲノム断片をpMIN136に挿入し、平均長20kbの挿入配列を含むゲノムライブラリーを得た。この導入効率は、pMIN136の改変前プラスミドであるpBP136と比較して33倍向上した。さらに、このライブラリー中の30kbの挿入配列を持つプラスミドは、百日咳菌のin vitro培養およびin vivo感染中に安定維持されることがわかった。 2.大腸菌BACベクターを改変した新規の百日咳人工染色体ベクター(BpBAC)の作製 大腸菌BACベクターは大腸菌内コピー数が1であり、大きなDNA断片の導入に適している。BACの一つであるpBeloBAC11に安定維持のためのtoxin-antitoxin system (parDE)と複製起点oriVを導入し、BpBACを作製した。さらにoriVと相互作用する複製因子であるtrfAを発現する組換え百日咳菌(Bp-trfA)を作製した。BpBACとBp-trfAを組み合わせることによって、本プラスミドに挿入された長鎖DNA断片を百日咳菌でも複製・維持させることができた。さらに、BpBACを用いて、前項と同様に気管支敗血症菌ゲノムDNAライブラリーを作製することに成功した。
|