研究課題/領域番号 |
25670215
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研究種目 |
挑戦的萌芽研究
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研究機関 | 北里大学 |
研究代表者 |
阿部 章夫 北里大学, 大学院感染制御科学府, 教授 (50184205)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | ボルデテラ属 / III型分泌装置 / エフェクター / BspR / 分泌 |
研究概要 |
申請者らはボルデテラ属細菌において,新たな転写調節因子を発見しBspRと命名した。 BspRは菌体内で制御因子として機能する一方で,III 型分泌装置によって菌体外に分泌される。 BspRが菌体外に分泌されることで,フィードバック制御による転写調節が,おこなわれているのだろうか? これを検証するために,BspRのN末端側にFLAGタグを付加して,非分泌型のBspRを作製した。その結果,非分泌型のBspRにおいても野生型BspRと同様な転写調節の機能を有していたので,BspRの分泌能は菌体内での機能(制御因子としての機能)には関与しないことが明らかとなった。 一方,エフェクターの多くは,III型分泌装置を介して宿主内に移行し,宿主細胞機能を撹乱することで感染維持に寄与している。そこで,BspRが III型分泌装置依存的に宿主細胞内に移行するのかについて,CyaAレポーター系にて評価した。CyaAは宿主細胞内のカルモデュリンによって活性化型となり,細胞内cAMPの濃度を増加させる。BspR-CyaA融合タンパク質を発現するプラスミドを構築し,気管支敗血症菌のcyaA欠損株に導入後,感染細胞のcAMP量を測定することで,融合タンパク質の宿主移行能を判定した。その結果,BspRはN末端の150アミノ酸残基を介して,III型分泌装置依存的に宿主内に移行することが明らかとなった。 以上の結果をまとめると,1) BspRの転写調節因子としての機能には,菌体外分泌は必要ではないこと,さらに,2) III型分泌装置を介し宿主細胞内に移行することを明らかにした。BspRは菌体内で機能するのとは独立して,宿主内でエフェクターとして機能する可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでの研究成果により,BspRが菌体内で機能するのとは別に,III型分泌装置を介して宿主細胞内に移行することを明らかにした。この発見によってBspRは,原核ー真核生物の両者で働く機能性タンパク質であることが強く示唆された。今後は,宿主細胞内の機能についてより詳細に解析をおこなうことで,BspRの二面性が明らかになると考えられる。当初の予定通り,研究計画は順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
BspRは菌体内だけではなく,III型分泌装置を介して宿主内に移行することが明らかになったので,宿主内での機能についてより詳細な解析をおこなう予定である。 これまで,BspRの発現ベクターを培養細胞に導入していたが,トランスフェクション効率にばらつきがあるために,定量解析に問題が生じていた。そこで,bspR遺伝子を培養細胞の染色体に安定に導入し,Tet On Offシステムによる遺伝子誘導で,bspRの発現を制御する培養細胞株の樹立をおこなっている。発現誘導が可能な均一クローンを作製することで,細胞内におけるBspRの局在,BspRと相互作用する宿主側因子の同定,BspR存在下における宿主側因子の発現解析が容易になる。これによって,BspRの宿主内での機能をより詳細に解析する予定である。 一方,FHAやパータクチンなどの百日咳ワクチン抗原も,このBspRに正の調節をうけている。現在,BspRによって正の調節を受けている未知タンパク質について大腸菌での精製をおこなっている段階である。in vivoの感染実験にて,ワクチン抗原として利用可能であるかを評価したい。
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次年度の研究費の使用計画 |
BspRは菌体内での転写制御因子としての機能とは別に,宿主細胞内に移行することを明らかにした。BspRの機能をさらに精査するために,細胞内での発現解析を展開しているが,現在,培養細胞の染色体上にbspR遺伝子を組み込んだ均一クローン株を作成している段階である。 研究計画はおおむね順調に推移しているが,均一クローン作製後に計画していた実験がずれ込んだので,次年度使用額が生じた結果となった。 BspRの宿主細胞内での機能を明らかにするために,培養細胞の染色体上にbspR遺伝子を安定に組み込んだ株を樹立しているところである。この樹立株の最大の特長は,Tet On/Off システムにてBspRの発現を厳密に制御可能なことである。この樹立株をもちいて,BspRの発現誘導をかけたときに,宿主細胞の遺伝子発現・タンパク質発現が,どのように変わるのかを網羅的に解析する予定である。また,BspRの局在とこれと相互作用する宿主側因子の解析をおこなうことで,宿主内でのBspRの機能を調べる予定である。 一方,BspRは菌体内で転写調節因子として機能しており,ワクチン抗原も正の調節を受けているを明らかにしている。BspRによって正の調節を受ける未知タンパク質の洗い出しをおこない,ワクチン抗原として利用可能かについて,マウスを用いた感染防御試験をおこなう予定である。
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