インフルエンザの最大の特徴は、効率の良い飛沫伝播である。ヒトインフルエンザ研究においては、これまでに4種類の動物モデルが確立されているが、飛沫伝播をサポートし、かつ、臨床症状を示す小型動物モデルは存在しない。そこで本研究では、小型のげっ歯類であるハムスターを用いて、小型の飛沫伝播動物モデルの確立を目指す。本モデルが確立されたら、特殊な大型施設を用いることなく、BSL3施設においても容易に飛沫伝播実験を行うことが可能になるため、季節性インフルエンザウイルスやH5N1高病原性鳥インフルエンザウイルス等の性状解析だけでなく、新たなワクチンや抗ウイルス薬の開発およびそれらの評価法の進展に大きく寄与できると考えられる。 これまでに、複数のA型およびB型インフルエンザウイルスを用いて、ハムスター個体間における直接接触伝播実験および飛沫伝播実験を行ってきた。直接伝播実験では、ウイルス接種ハムスターと非接種ハムスターを1つのケージ内に飼育した。飛沫伝播実験では、2つのケージの間に2枚の金網でスペースを設けた特殊ケージを作製して実験を行った。その結果、2009年に出現したH1N1新型ウイルス株では、非接種ウイルスの血中に高い抗体価が認められただけでなく、鼻洗浄液中からウイルスが分離された。すなわち、H1N1新型インフルエンザウイルスは、非常に高い効率でハムスター個体間で飛沫伝播することを見出した。一方、A型ウイルスにおいてもB型ウイルスにおいても飛沫伝播を起こさない株が存在したことから、ウイルス学的要因が飛沫伝播能力に影響を与えていることが示唆された。
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