研究課題
挑戦的萌芽研究
後天性免疫不全症候群(AIDS)の原因ウイルスであるヒト免疫不全ウイルス1型(HIV-1)は宿主域が狭く、ヒト以外に感染する動物はチンパンジーのみであり、アカゲザル、カニクイザル等の旧世界ザルやマーモセット等の新世界サルには感染しない。従って感染予防ワクチンの有効性を実験的に検定することが困難であり、ワクチン開発の大きな障害の一つとなっている。本研究は、サルの人工多能(iPS)細胞に遺伝子操作を加えて、HIV-1が個体内で感染・増殖できるサルを作出することを目的とする。今年度は、採取の比較的容易なアカゲザル末梢血細胞を出発材料としてiPS細胞樹立・維持条件の最適化を試みた。アカゲザル末梢血から末梢血単核球を分離し、Oct3/4、Sox2、Klf4、c-Myc のいわゆる山中4因子を発現するセンダイウイルスベクターを用いてiPS 細胞の樹立を複数回試みた。当初、山中4因子を発現する4種類のセンダイウイルスベクターを用いてiPS 細胞の樹立を試みたが、得られた細胞の遺伝子発現をRT-PCRにて解析した結果、センダイウイルスベクターの感染は確認できるものの、形態およびアルカリフォスファターゼ活性により未分化性iPS細胞樹立と同定することはできなかった。アカゲザルのiPS細胞はヒトやカニクイザルに比して樹立・維持が困難である可能性が考えられた。そこで山中4因子が1つのセンダイウイルスベクターにすべて発現しているものを用い、さらに、いくつかの培養条件を最適化したところ、最終的にembryonic stem cell様の形態を示すコロニーを樹立・維持ができるようになった。
3: やや遅れている
当初、文献的検索から、HIV-1の近縁ウイルスであるサル免疫不全ウイルスの感染モデルとして良く使用されるアカゲザルについてもiPS細胞作製が既に報告されていたために、アカゲザルの血液由来細胞を用いてiPS細胞の樹立を試みたが、樹立には至らなかった。そこでよりiPS細胞化の効率のよいウイルスべクターを使用し、さらに培養条件も広い範囲で検討して最適化したとろ、最終的にiPS細胞様の形態を示す細胞株の樹立に至った。この培養条件の最適化に当初の予想を遥かに越える時間を要したために、今年度は、当初計画していたiPS細胞からのT細胞への分化やそれらのサル個体への移植には至らなかった。しかし、当初参照したアカゲザルからのiPS細胞樹立の文献を再精査したところ、記載されているPCR用プライマーの配列から、用いられたサルはアカゲザルではなくカニクイザルであった可能性が考えられたため、我々の今年度の成果は、世界で始めてのアカゲザルのiPS細胞の樹立、となる可能性がある。アカゲザルとカニクイザルはヒトのモデルとしてそれぞれ別個の特徴を有しており、アカゲザルにおけるiPS細胞の樹立は再生医療技術全般の発展に寄与する可能性がある。
得られたiPS細胞様の細胞株の種々の万能化マーカーを詳細に検討して、iPS細胞であるか否かの検討を行う。一方、確実なiPS細胞化が既に複数回報告されているカニクイザルについてもiPS細胞化を行う。Schmittらの方法(Schmitt et al. Nature Immunology 2004, 5:410-417)に従い、得られたサルのiPS細胞とNotchリガンドを発現させたマウスのstromal cellの共培養にIL7やFlt-3のリガンドを加えて、CD4陽性CD8陽性の未成熟T細胞を得る。一方、iPS細胞を樹立した幼弱サル個体の胸腺組織にその未成熟T細胞を移植する。既に当初の計画から遅れているために、蛍光マーカー発現のみならず、HIV-1のrestriction factorであるTRIM5αやAPOBEC3Gの発現を人為的に抑制させたiPS細胞の移植を試みる。
平成25年度は計画の一部しか達成できず、大阪大学においてはサル細胞からのiPS細胞化のみの費用、京都大学ではサルからの採血の費用のみが生じた。本年度は前年度の研究費を含め、遅れを取り戻すために、全体としては当初の予定どおりの計画を進める。
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