研究課題/領域番号 |
25670220
|
研究機関 | 川崎医科大学 |
研究代表者 |
堺 立也 川崎医科大学, 医学部, 講師 (00309543)
|
研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2017-03-31
|
キーワード | インフルエンザウイルス / 感染行動 / 行動科学 / ウイルス学 / 生物物理学 |
研究実績の概要 |
インフルエンザウイルスの感染行動のメカニズムとその感染過程における意義をあきらかにする目的で,ウイルスノイラミニダーゼに変異を導入したウイルスを作製し行動解析を行った.平行して変異ウイルスのヒト細胞への感染性を測定することで,どのような感染行動がウイルスのヒトへの感染に重要かをあきらかにした.行動解析は,前年度に開発したウイルス行動可視化解析システムを用いておこなった.その結果,ウイルス行動のメカニズムと意義について,以下のことがあきらかになった. 1.変異ウイルスの行動の比較.酵素活性部位に変異を導入したノイラミニダーゼを持つウイルスを作製し,その行動を可視化解析した.その結果,変異ウイルスのノイラミニダーゼ活性が30%以下に低下するとウイルスの運動が抑制されること,ウイルスの運動にはウイルス粒子あたりのノイラミニダーゼの活性だけでなく一定以上のノイラミニダーゼの分子数が必要なことがわかった.ところでウイルスの運動様式は,漸進的な運動(crawling)と跳躍的な運動(gliding)が存在する.変異ウイルスの運動の比較から,ウイルスのgliding運動の移動距離にもノイラミニダーゼ活性が影響することがわかった.ウイルスは,ノイラミニダーゼでシアロ糖鎖を分解しながらglidingをおこなっていることがわかった. 2.変異ウイルスのヒト呼吸器由来のA549細胞に対する感染性を調べた結果,glidingの頻度の高いウイルスが,A549細胞への感染性の高いことがあきらかになった.ウイルスは,大半の時間はcrawling運動を行うが,数%のgliding運動が加わることで飛躍的に移動距離が伸びる.ウイルスはgliding頻度を上げることでよりすみやかにエンドサイトーシスの領域に到達することができるようになり,ヒト細胞への感染効率をあげるものと考えられる.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の研究の計画からみて,部分的に若干の遅れはあるものの,おおむね順調に研究を遂行できたと考えている. ミズドリのウイルスが,どのようにしてヒトへの感染性を持つウイルスに変化するかは,新型ウイルスの出現メカニズムを知る上で大変重要な問題である.前年度までの研究でヒトウイルスの感染行動パターンは,ミズドリウイルスに比べ跳躍的な運動(gliding)の頻度が高いことがあきらかになった.本年度は,ウイルス蛋白質に変異を導入したウイルスを作製し,ウイルスのgliding運動の頻度を操作することで,ヒト細胞への感染性がどのように変化するかをあきらかにした.ヒトへの感染性や感染の種(宿主)特異性について,ウイルス行動の見地から新たな知見を得たことは,本研究課題の目標の一つを達成したと考えている. また本研究において変異ウイルスの作製から行動解析までの実験系が完成した.このことにより今後人為的に感染行動を操作したウイルスを作製することができるようになった.これは自律的に標的細胞に感染するウイルスベクターの開発などの応用研究につながるものであり,本研究成果の学術的・社会的意義は大きい. 以上の研究成果については,2015年度の日本ウイルス学会等において報告している.また論文についても現在投稿中である.成果の公表を滞りなく行うことで,研究の順調な遂行をしめすことができると考えている.
|
今後の研究の推進方策 |
本研究課題は,平成27年度が最終年度であったが,成果についての論文発表が遅れているため平成28年度まで期間を延長しており,論文は現在投稿中である.今後は,当該論文の修正・再投稿等をおこない早急に成果の公表を行う予定である.
|
次年度使用額が生じた理由 |
当該研究の成果の公表のため現在論文を投稿中であるが,まだ受理には至っていない.そこで今後,論文の修正や再投稿およびそれに必要な追加の実験の実施等がみこまれ,これらにかかる経費が生じたため.
|
次年度使用額の使用計画 |
次年度使用額(749,777円)は,論文の修正・再投稿のための追加の実験の経費,英文校正料,論文掲載・印刷にかかる経費として平成28年9月頃までを目処に使用する予定である.
|