研究課題
挑戦的萌芽研究
寄生虫は独特の免疫応答を誘導し、自らの寄生適応のため宿主免疫を抑制すると同時に、アレルギー反応など有害な免疫応答も抑制することが示唆されている。しかし、寄生虫への特徴的な免疫応答がどのように誘導されるかは分かっていない。一方で、アレルギー患者では腸内で善玉菌の減少が認められるように、腸内細菌もまた免疫応答に影響する。本研究では、腸管寄生虫による免疫変調への腸内細菌の関与を解析した。腸管内寄生性線虫、Heligmosomoides polygyrus(以下Hp)をマウスに感染させ、腸内細菌叢を解析したところ、わずかに一部の細菌の増減が認められただけであった。また、抗生物質を飲水投与し腸内細菌を減じたマウスにHpを感染させても、Hpの感染動態に変化は見られなかった。このことから、Hp感染と腸内細菌の関連性は希薄であると思われた。しかしながら、予想外に赤血球寄生性のマラリア原虫を感染させると、下痢等の腸管症状を伴い、腸内細菌叢が著しく変化していることが明らかとなった。これは、免疫変調が認められる致死性マラリアモデルにおいて顕著であった。マラリア患者、あるいは実験モデルにおいても免疫抑制が見られることから、マラリアにおける免疫変調に腸内細菌が関わっていることが示唆された。以上のように、想定していた腸管寄生性寄生虫の免疫変調が腸内細菌によってもたらされるという仮説を否定することが出来た。一方で、これまでマラリアでは腸管症状が効率で認められるにも関わらず、腸内細菌を検討した報告は皆無であり、マラリアと腸内環境という新たなパラダイムが開けるかも知れない知見を得ることができた。
1: 当初の計画以上に進展している
本来の目的は腸内寄生性寄生虫と腸内細菌の関連性を見出すことであったが、今回の研究で否定的であることが分かり、新たな可能性を模索することが出来た。その結果、想定外ではあったが、マラリアと腸内細菌の関連性を示唆する重要な知見を得ることができた。したがって、当初の計画からさらに進んだ新たな研究を展開できる。
マウスマラリアモデルを用いて、マラリアにおける免疫抑制と腸内細菌の関連を詳細に検討する。マラリア原虫感染マウスに、アレルギー、自己免疫モデルを適応する。各モデルで炎症の評価を行い、Hp感染による炎症への影響を観察し、さらには、寄生虫による免疫抑制作用への腸内細菌の影響を検討するために、抗生物質を投与し腸内細菌を減じたマウスを用いる。我々はこれまでにマラリアにおける免疫抑制として制御性T細胞 (Treg) が関わっていること見出しており、Tregサブセットと腸内細菌の関連に注目して検討を加える。胸腺で分化するtTregと異なる、末梢で分化するpTregは粘膜でのTh2応答を制御する。寄生虫がiTregを抑制することでTh2を促進する一方、全身の免疫を制御するnTregを活性化することで、炎症を抑制するという仮説を証明したい。ヒトにおいてもマラリアの腸内細菌叢への影響を検討する。ウガンダにおいて患者さんを対象に抗マラリア薬投与前後の糞便サンプルからDNAを抽出し、腸内細菌叢を網羅的に定量する。
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DNA Res.
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