研究課題/領域番号 |
25670229
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研究種目 |
挑戦的萌芽研究
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
西住 裕文 東京大学, 理学(系)研究科(研究院), 助教 (30292832)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 抗原受容体 / VLR / 自己抗体 / アロ白血球抗原 / 無顎類 |
研究概要 |
脊椎動物には、一度感染した病原体に対して抵抗性を持つ「獲得免疫」が備わっている。魚類から哺乳類までの有顎類では、immunoglobulin (Ig)タイプの抗原受容体を発現するリンパ球が中心となって高次免疫機能を発揮していることが広く知られている。それに対して原始的な脊椎動物である無顎類は、近年の研究から、Leu rich repeat (LRR)配列を有するvariable lymphocyte receptor (VLR)が遺伝子再編成され、抗原受容体として機能することが少しずつ明らかになってきた。本研究では、獲得免疫システム成立の為に重要な次の命題である、自己反応性抗原受容体の排除の分子機構を解明することを目指した。 予備実験から、無顎類ヌタウナギ血清中に含まれる分泌型VLR-Bの中に、同種異個体の白血球を認識するアロ白血球抗原が存在することが示唆されていた。糖鎖切断酵素処理では変化無いが、タンパク質分解酵素処理によって抗原性が消失したことから、VLR-Bが白血球に高発現し多型性を持つ膜タンパク質を白血球抗原として認識している可能性が強く示唆された。そこでヌタウナギ白血球のcDNAライブラリーから、白血球で高発現し、多型性を持つ膜タンパク質をコードする遺伝子を、マイクロアレイ法等を駆使して絞り込んだ。VLR-Bとアロ白血球の交差反応性がALAの多型具合に依存しているかについて、複数のヌタウナギ個体を用いて血清学的な交差試験を行い確かめた。さらに、アロ白血球抗原の候補分子に対する抗体を作製し、予め中和抗体として抗体を白血球に振り掛けておくと、VLR-Bによる交差反応性が無くなるかを指標に、アロ白血球抗原(allogenic leukocyte antigen: ALA)を同定することに成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
予備実験によって存在が示唆されていた白血球抗原ALAを、大きな障害もなく同定出来た事は非常に幸運であった。但し、計画していたALAを認識するVLRを単離する所までは進まず、VLR遺伝子にreceptor editingやsomatic hypermutationが起こるかまで解析できなかった点だけが反省点である。翌年度に持ち越して解析を行う。
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今後の研究の推進方策 |
自己反応性VLRが遺伝子再編成によって偶然作られた場合、何らかの選別がリンパ球の分化の過程で起こっていると考えられる。哺乳類における胸腺のように、無顎類のどこでリンパ球の選別が行われているかを免疫組織学的な解析より明らかにする。 また、無顎類においてMHC様の分子の存在は報告されておらず、現在の所どのような分子がどのような機構でVLRリンパ球の選択にかかわっているか全く不明である。同定に成功したALAは、MHCとアミノ酸レベルで相同性を持たないが、多型性に富む膜タンパク質という特徴から、MHCに似て抗原を提示する役割を果たしている可能性が考えられる。そこで今後は、ALAが抗原提示に関わる可能性についても、免疫応答反応を組織学的に解析する事で検証する。
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次年度の研究費の使用計画 |
当初の計画通り、白血球抗原ALAの同定には成功したが、同定に予想より時間がかかったため、もう一つ計画していたALAを認識するVLRを単離し解析する所までは至らなかった。そのため、当初計上していた消耗品費等は今年度使用せず、翌年度に繰り越して充当することにした。 懸案だったALAの同定に成功したので、これを足がかりに詳細な解析が順調に行えると予想される。やり残した実験と、今後の新たな実験のために、主に消耗品費として使用する計画である。
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