研究課題/領域番号 |
25670239
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研究種目 |
挑戦的萌芽研究
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
伊藤 道哉 東北大学, 医学(系)研究科(研究院), 講師 (70221083)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 筋萎縮性側索硬化症 / 認知行動障害 / スクリーニング / ALS-D / TLS / ALS-FTD-Q / 評価尺度 / 倫理 |
研究概要 |
「ALS-D(認知症を伴うALS)患者・家族のケアに関する倫理的・社会医学的研究」は、生命予後が短くコミュニケーション障害が早く起こるALS-Dの可能性がある患者に、認知障害、行動障害等の高次脳機能障害に関する適切な検査・診断が行われ、診断を踏まえて、患者自身が事前指示を行いうる段階で早めに代理人を指名して、療養の決定を委ねられるならば尊厳ある生を全うできる可能性が高まる。かつ、家族・介護者も、ALSの療養指導に加えて高次脳機能障害について適切なケアの指導を受ければ、介護負担が軽減することが期待される。 I. 仮説の検証、及び実態を把握するための調査。現在、ALS-Dの適切なスクリーニングのための評価尺度・検査システムがないため、後ろ向きの調査を行い、4つの仮説を検討することで、ALS-Dの特徴を明らかにする。仮説1.ALS-Dでは生命予後が短い 2.コミュニケーション障害が早く起こる 3.家族・介護者・医療者の負担が大きい 4.事前指示の適用の可能性が高い、以上の仮説を遺族、医師、看護職、介護職、難病支援専門員、コミュニケーション支援者への後ろ向き調査で明らかにするため、まず、ヒヤリング調査を行った。 II.評価尺度の開発。2012年9月、アムステルダム大学のde Haan RJらはALS患者のための新調査票(The ALS-FTD-Q A new screening tool for behavioral disturbances in ALS 筋萎縮性側索硬化症前頭側頭型認知症調査票[ALS-FTD-Q]、Neurology:2012 Sep 25;79(13):1377-83.を発表しているが、日本語版はない。この日本語版を開発するため、専門家のアドバイスを受け仮訳を作成した。そのほかに、MoCA、FAB等、認知行動障害に関する評価尺度を精査、網羅的に比較検討した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
ALS-D(認知症を伴うALS)患者・家族のケアに関する倫理的・社会医学的研究では、初年度に大規模調査を当初予定していた。すなわち、遺族:日本ALS協会遺族会員対象300名、医師:ALS診療に経験の深い臨床医。病院勤務医150名、診療所に医師50名、看護職:日本ALS協会施設会員の看護職200名、介護職:日本ALS協会施設会員の介護職 200名、難病医療専門員(神経難病支援専門員):30都道府県50名、コミュニケーション支援者:日本ALS協会の把握するコミュニケーション支援者50名である。しかし、大規模調査の前に、ALSをよく知りかつ認知行動障害についても経験のある専門家等41名(医師13名、看護師8名、遺族5名等)に関するヒヤリングをおこなったところ、認知行動障害の早期のスクリーニングに批判的な見解が大半を占め、社会的影響も考慮して、大規模調査の内容を再検討することとした。また、ALSのみならず認知行動障害に関する内外の文献を網羅的に精査したところ、認知症の早期のスクリーニングが、本人、家族、介護者の健康アウトカム及び意思決定の向上に寄与している証拠はないというシステマティックレビュー(AHRQ Publication No. 14-05198-EF-1,2013年11月)等、認知症の早期スクリーニングに慎重な見解も見出された。さらに、仮説2「コミュニケーション障害が早く起こる」については、画期的なデバイス「HALスイッチ」(仮称)の登場により、従来に比べて、極めて重症のALS患者で、随意筋の機能が低下した場合でも、コミュニケーションがとれるようになる可能性が現実化してきており、今後1年以内にコミュニケーション改善によるTLS(完全な閉じ込め状態)を巡る状況が大きく変化することが予想され、大規模調査のあり方を見直した上で、2年目に実施することが妥当であると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
I.専門職の意識を把握するための調査を本年度に実施する。ただし、ヒヤリング調査では、認知行動障害出現以前の早期スクリーニングに、極めて慎重を要するとの意見が多く、本人にはほとんどメリットがないため、ALS患者の家族に対する調査にも疑問と批判が多く、ALSをよく知る専門職のみの限っての調査を実施する。調査対象:700名。内訳は、医師・看護職・介護職各200名、難病医療専門員(神経難病支援専門員):30都道府県50名、コミュニケーション支援者:日本ALS協会の把握するコミュニケーション支援者 50名①筋萎縮性側索硬化症+前頭側頭型認知症調査票日本語版(仮)による、ALS-Dスクリーニングの倫理的・社会的問題点について調査する。をさらに図る。調査の結果を分析し、ALS-Dのスクリーニングのあり方について提言する。特に、ALSと診断された時点で、できるだけ早期に認知行動障害のスクリーニングを行うべきか、認知行動障害の症状が疑われる時点で検査すべきか、認知行動障害がでてから検査すべきかについて明らかにする。患者自身に関するメリット・デメリット、家族のメリット・デメリット、介護スタッフのメリット・デメリットを比較衡量して、認知行動障害の最適の検査のタイミングを検討する。②また、スクリーニングに基づく、事前指示のメリット・デメリットおよび、倫理的・社会的問題点について調査する。さらに、いわゆる難病新法施行とともに、患者、家族、介護者の相談支援に当たる専門家が、認知行動障害の相談に対応できるような情報を提供する。なお、調査票作成にあたっては、医学の専門家以外の有識者から、専門的知識の提供を受け、調査内容の精緻化をはかる。調査結果解釈の際、法律家、倫理学者等、医学の専門家以外の有識者からも、専門的知識の提供を受け、分析の精緻化を図る。そして、本研究の成果を、報告書、学術誌等によって公表する。
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