研究課題
核酸系逆転写酵素阻害剤(NRTI)はDNA鎖に取り込まれてchain terminatorとしてその後のDNA伸長を停止させる。HIVの多くは、DNA鎖に取り込まれたNRTIをATPによって除去(excision)することによって広範なNRTI耐性を獲得する。本研究ではこの耐性化によって損なわれた薬剤感受性を回復させることを目指して、それを酵素における生化学・薬理学・構造生物学の3分野へ波及・応用することを目的とした基礎研究を行った。平成25-26年度はアッセイ系を最適化しただけでなく、excisionの効率が細胞内ATP濃度と正の相関がみられることを見出した。また小分子化合物スクリーニングから、効果は弱いもののヒット化合物を同定した。平成27年度は、これらの化合物の類縁化合物を購入し、2次スクリーニングを行い、現在も効果の向上を継続させている。酵素構造学的には、活性中心を含めてATP結合部位の検討を行い、ATPと競合する化合物取得への足掛かりを得ている。HIVに加えて酵素学的に類縁であるB型肝炎ウイルス(HBV)逆転写酵素阻害剤耐性への影響も約2000化合物について検討した。HBVのアッセイは培養上清中に放出されるHBV粒子中に含まれるウイルスゲノムDNA量を定量PCRにて検討し、さらに検討化合物を増やす予定である。また、同様にレトロトランスポゾンに逆転写酵素活性があることから、既存のNRTIを利用してこの活性阻害を検討したところ、マウス胚細胞において細胞分化能が変化することを見出してProc Natl Acad Sci USA誌に報告した。既存および新規薬剤の効果から、これまで知られている主な逆転写酵素に関する酵素学的な特徴を詳細に捉えることができ、耐性を克服することが期待される今後の新規化合物合成展開の方針決定に役立つ情報を得たと同時に胚細胞分化という異分野の研究にも貢献することができた。
すべて 2015
すべて 雑誌論文 (5件) (うち査読あり 5件、 オープンアクセス 4件、 謝辞記載あり 1件)
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