研究代表者らはこれまでの研究で細胞から放出されるエキソソーム内に様々な RNA種が存在することを報告した。また、放射線照射すると細胞のmRNAやnon-coding RNAの遺伝子発現が大きく変化することを明らかにしてきた。エキソソームは後期エンドソームが多胞体へと成熟する際に形成される直径40~200nm程度の膜内小胞のことで様々な体液に存在する。放射線被ばくを受けた細胞から放出されるエキソソーム内の成分は、被ばくによって発現変化した成分の特徴を示すことが想定される。そこで本研究課題では放射線被ばくさせたマウスの血清中で著しく増加するmicroRNAの探索を行った。 マウスに7GyのX線を照射後24時間、48時間、72時間経過後に血清を分離した。得られた血清からIsogenII試薬によりmicroRNAを抽出してCyanine-3で標識した。Agilent製microRNAマイクロアレイを行い、血清中における発現変化を比較した。その結果、X線非照射群(0Gy)の血清に比べて、X線照射群(7Gy)の血清において1.5倍以上変化するmicroRNAは58個存在した。これらのうち血清中miR-375-3pは7GyのX線照射後24時間、48時間、72時間後にそれぞれ1.9倍、5.4倍、12.7倍増加した。このことは血清中miR-375-3pが放射線被ばくにおけるバイオマーカー候補になることを示唆している。 現在、被ばく線量は染色体異常によって評価されているが、判定されるまでに日数を要するために、迅速な新規内部被ばく線量評価法の開発が望まれている。その点で本研究遂行の意義は高い。今後、被ばくバイオマーカー候補の再現性や短時間で被ばく線量を評価できる改良リアルタイムPCR 法の開発を目指す。
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