研究課題
挑戦的萌芽研究
デング熱、ウエストナイル熱、黄熱など蚊を媒介とするフラビウイルスによる疾患は、血清学的にも互いに交叉を示し、免疫学的検査だけによって鑑別診断を下すことは困難である。本研究では、これら遺伝子構成が相似かよっているフラビウイルス群を、1回の共通する検査で迅速に鑑別できる遺伝子診断法を開発することを目的とした。フラビウイルスの遺伝子は、全長約10,000ベースから成る1本鎖(+)RNAであるが、5’側にウイルス構成蛋白質であるCやPrM、Eをコードする遺伝子領域があり、その後にNS1~NS5まで、いわゆる非構成蛋白質をコードする非構造蛋白質遺伝子領域が続いている。初めにNCBIのデータベースより、4つの異なる血清型のデングウイルス、Kunjinウイルスを含むウエストナイルウイルス、そして黄熱ウイルス各々から代表的な3株の全ゲノム遺伝子情報を得た。最も3’側に位置するNS5遺伝子(約3,700ベース)は、メチルトランスフェラーゼとRNAポリメラーゼの2つの酵素をコードしており、ウイルスが異なってもアミノ酸配列レベルで見ると非常に保存性が高いドメインが断続して現れることが明らかになり、同様のことが塩基配列レベルでも見られた。そこで、両酵素遺伝子内のとりわけ塩基配列の相同性が高い領域に一組のプライマーを仮想的に設定し、多少アラインメントを施した後に系統樹作成を試みた。すると、遺伝子の長さは1/3くらいでもNS5全領域で作成した時の系統樹や全ゲノム配列から作成した系統樹とほとんど同じトポロジーを示すことが明らかとなった。つまり、ウイルスの種別を鑑別できるのみならず、異なる4つの血清型のデングウイルスも区別できるということである。フラビウイルス感染が疑われるウイルス性出血熱症状の患者検体を集めたので、今後本法を適用して有用性を確認する予定である。
2: おおむね順調に進展している
フラビウイルスに属するデング熱、ウエストナイル熱、黄熱などのこれまでに報告されている遺伝子情報を基に、これらを1回の遺伝子検査で鑑別診断可能な標的遺伝子としてNS5遺伝子に注目し、そこから得られた系統樹が十分にゲノム全体を反映していることを明らかに出来たたことは、当初の発案がうまく的中したことを意味しており、その意味では順調に進んでいると思われる。ただし、ここまではあくまでバイオインフォーマティックス・レベルでの解析であり、実際の検体に適用して実証しなければならない。
実際の検体を使って初めて本法の有用性が確認できるので、そのためには陽性コントロールおよび被験検体の入手が肝心と考えられる。現在デング熱のコントロール検体と、その他にウイルス性出血熱様症状を呈した患者検体が数検体であるが入手出来ているので、それらを用いた実験を進める予定である。プライマーに関しては、塩基配列の一部を混合ヌクレオチドするなど、試行錯誤が必要になると思われる。
平成25年度末に注文しようと予定していた若干の試薬類が連絡の遅延により会計の締めに間に合わず、已むを得ず次年度に使用することになったため。次年度に入ってから、平成25度末に注文予定だった試薬等を購入する予定である。
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J AIDS Clin Res
巻: 5 ページ: in press
ウイルス
巻: 63 ページ: 79-86