研究実績の概要 |
デング熱、ウエストナイル熱、黄熱など蚊を媒介とするフラビウイルスによる疾患は、症状も似ており、加えて血清学的にも互いに交叉を示すことから、免疫学的検査のみによって鑑別診断を下すことは困難である。本研究では、これらフラビウイルス感染症を、1回の共通する検査で迅速に鑑別できる遺伝子診断法を開発することを目的とした。従来は、多数の研究グループから個々のウイルスについてウイルスの構成蛋白質であるCやE蛋白質領域を標的としたRT-PCRの手法が提案されていた。初年度(平成25年度)は、データベース上で公開されている各ウイルス群の代表的な株の遺伝子配列情報を利用し、いわゆる非構造蛋白質をコードしている領域の内、ウイルス増殖に必須なメチルトランスフェラーゼとRNAポリメラーゼをコードしているNS5遺伝子領域全域(約3,000ベース)の配列に基づく分子系統樹がウイルスの全ゲノム配列に基づく系統樹とほとんど同じトポロジーを示すこと、またそれのみならず、その約1/3の配列から作成した系統樹も、同様であることを明らかにした。平成26年度は、各ウイルスの配列情報をアラインメントし、最も共通性の高い1対のプライマー領域(約920ベース)を設定し、実際にウイルスから抽出したRNAを鋳型として、そのRT-PCRがうまく作動するか否かを検討した。プライマー設計に当たっては、多様な株に対応できるように、数か所に複数塩基がミックスされているdegenerative primerを導入した。その結果、少なくともデングウイルス4つの血清型はすべて効率良く検出できることが確認された。また実際の臨床検体への応用に関しては、発熱症状が疑われながらマラリアなどが陰性であったアフリカ(コンゴ民主共和国)の血清検体をこの新しく開発した検査法で調べたところ、デングウイルスであることが確認され、その実用性が実証された。
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