研究課題
挑戦的萌芽研究
現在開発中の次世代シークエンサーを応用した網羅的感染症診断システムによる腸管感染症の診断では、腸内フローラのデータがノイズとして混入し、標的の病原体がマスクされる問題が生じる。本研究ではこの問題を解決するため、腸内の微生物集団のうち、免疫応答を引き起こしている群を分泌抗体のIgAを利用してセルソーティングを行い分画する。さらにこの方法と次世代シークエンサーによる解析を組み合わせた「イムノターゲット・メタゲノミック診断法」を開発する。バックグラウンド情報として正常フローラに対するIgAの結合をセルソーティングで解析し、続いて、感染検体で検討することで感染症の診断に適応することを目指している。平成25年中に、健常人ボランティアから糞便の提供を受け、その糞便に含まれる微生物の中からIgAが結合しているものを抗ヒトIgA抗体と蛍光標識抗体を用い、蛍光顕微鏡で観察した。その結果、全ての糞便試料から蛍光を発するIgA陽性の細菌を観察した。IgA陽性の細菌は、顕微鏡観察下で全細胞(ヨウ化プロピジウム陽性細胞)の1-2%程度存在していた。また、細菌体表面の蛍光量は細胞間で一様でないことから、菌に付着したIgAの量は細菌ごとに異なることが示唆された。この結果を受け、オンチップバイオテクノロジーズ社のセルソーターFishman Rによりソーティングを試みた。その結果、細菌に付着したIgAの発する蛍光量が一般的なDNAの蛍光染色と比べて低いため蛍光陽性と陰性を明確に区別をすることが困難であった。そこで蛍光顕微鏡観察の結果を参考に、細胞集団のうち蛍光の強い方から1.5%をソーティングし、これをIgA陽性群と定義した。
3: やや遅れている
当初の計画ではソーティングした細胞群からDNAを抽出し、これを次世代シークエンサーによりシークエンスすることで、そこに含まれる細胞の生物種を推定する予定であった。当該年度中に、IgA陽性細胞のソーティンと、健常ボランティアより提供を受けた糞便中のIgA陽性細胞の観察は完了した。しかしながら、当初予定していた微量DNAの抽出からシークエンシングまでの過程で問題が生じている。ソーティングを行った結果、IgA陽性細胞を500個程度を得たものの、現在用いている核酸抽出法(MO BIO社 PowerSoilDNA Isolation Kit)では用いる細胞数が少なすぎるためか核酸抽出に成功しなかった。現状では、得られた核酸抽出溶液を鋳型とし、16S rRNAユニバーサルプライマーを用いたPCRを行った結果、ソーティング細胞由来の抽出核酸とnon-template controlの間に優位な差を認めなかった。ソーティングする細胞数をさらに増やす検討も試みたが、細胞数を増やすとソーティング精度が著しく悪化するため、希薄な濃度の細胞を用いる方が本研究の目的には適している。核酸抽出の方法にさらなる工夫が必要であると考えられるが未だ達成されていない状況である。また、ソーティング後の細胞を蛍光顕微鏡で確認する必要があるが、細胞のほとんどが細菌であること、またその細胞数があまりに少なすぎるため顕微鏡下での観察が不可能であったため、系の確立には至っていない。
研究の達成度を律速している要因を解決するべく分画細胞数を更に増やすアイデアとして、細胞分画法の変更を検討している。すなわち、ストレプトアビジン標識磁性ビーズとビオチン標識抗体を用いて、免疫沈降を行う。この方法では、セルソーターよりも多量の細胞を結合させることができるため十分量の細胞が確保できるものと期待している。研究計画に記載したマウスのシトロバクター感染モデルについては、既に感染実験を終了しており、糞便試料を保管している。最終年度はこの試料を用い、セルソーターもしくは磁気ビーズを利用した免疫沈降法によりIgA陽性細胞を分画する予定である。さらに、分画した細胞から核酸抽出を行い、次世代シークエンサーにより核酸配列を決定する。さらに、核酸抽出法についても改善が必要である。現在微量核酸に特化した核酸抽出キットを購入し、それぞれの収量と純度を検討しているところである。核酸抽出法の純度すなわち環境由来核酸の汚染に対して、本来目的とする抗体が結合した微生物由来核酸がどれだけ精製できるか検討する。このため評価系として、大腸菌と表皮ブドウ球菌を陽性コントロールとして使用する。大腸菌の外膜タンパクであるOmpCの抗体を用いた免疫沈降法により大腸菌のみを分画し、その核酸を精製する。このときの大腸菌由来核酸を特異的プライマーを用いたリアルタイムPCRを用いて評価する。研究代表者は平成26年度から所属機関が大阪大学から岡山大学へ移転したため、実験を継続するために本年は不足物品の購入費と旅費の請求が増加すると考えられる。
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