研究実績の概要 |
本研究では、臨床解析によって分類した菌血症、尿路感染症、健常者に由来する大腸菌株について、大腸菌既知病原遺伝子の保有率をPCR法によって調べた。その結果、菌血症由来株では接着遺伝子群(fimH, afa, iha)、細胞保護遺伝子群(cvaC, kpsMT, ompT)、鉄取込み遺伝子(aer)、尿路病原性特異蛋白遺伝子(usp)、組織侵入性遺伝子(ibeA)の9種類の病原遺伝子を優位に保有していた。しかし、これらの結果は病原性を完全に理解するためには不十分であった。このことから、新規病原遺伝子の探索を目的として、新生児髄膜炎由来大腸菌株の全ゲノム遺伝子を解析し、大腸菌K-12株(E. coli DH10B)および尿路感染症由来大腸菌(E. coli CFT073)のゲノム配列との比較解析を行った。その結果、新生児髄膜炎由来大腸菌のみが保有する26種類の遺伝子を見出し、これらの遺伝子がコードする蛋白質の機能が解明されているものが7種類、解明されていない遺伝子が19種類含まれていた。そこで、機能が解明されていない遺伝子について、遺伝子がコードする蛋白質の構造モチーフをPfam ver.27.0(https://pfam.sanger.ac.uk/)によって解析した。その結果、7種類の遺伝子について構造モチーフが類似する既知蛋白質を認めたが、残り12種類の遺伝子については類似の構造モチーフを有する既知蛋白質を認めなかった。更に、この12種類の遺伝子について菌血症、尿路感染症、健常者に由来する大腸菌株での保有率をPCR法によって調べたが、予想とは異なり何れのグループの大腸菌においても保有率が極端に低く、新生児髄膜炎由来株に特有と考えられる結果を示した。この結果は、これらの機能未知の遺伝子が大腸菌の血液脳関門の通過に重要な役割を有している可能性が示唆される。このことから、この機能未知の遺伝子の機能を解明する事で新たな病原因子や感染メカニズムについての重要な知見が得られると考えられる。
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