研究課題
挑戦的萌芽研究
介護予防や臨床の現場では、特に加齢性筋肉減少症(サルコペニア)において、筋力、筋量、運動能力の測定、聞き取りによる日常活動のスコアーを用いて診断を行っている。ただ、これらの方法は有効性が乏しく、筋萎縮が進むと不可逆性の筋の変化を早期に発見し、筋萎縮の予防・治療を可能にすることが急務である。本申請において、共同研究者の重本等は、サルコペニアに特異的なバイオマーカー(A蛋白とする)を発見し、詳細な研究を行った結果、①マウス神経筋シナプスの形態縮小・機能低下が進行中のマウスにおいてmRNA発現量が上昇していること、②ギブス固定拘束による廃用性筋萎縮に対する機能回復訓練を行った患者20名に対して、血中のA蛋白レベルと骨格筋の状態(量、機能)との間に正の相関が認め、A蛋白が骨格筋の状態を把握するためのバイオマーカーとして利用できることを見出した。これらに結果より、血液中のA蛋白を測定するため、申請者等が開発した高感度同時多項目測定(MUSTag)法を用いて、測定法の開発を行った。昨年度の結果として、(1)A蛋白に特異的に反応する抗体からアッセイ系に用いる最良のペアー抗体を決定した。(2)これらの抗体を用いてMUSTag法による測定法をさらに改良し、血清を用いて特異的にしかも安定した結果が得られる最適条件を決定した。(3)1,000例以上の患者サンプルを用いて測定した。20例の症例で予備的に得られた非統計的データとして、リハビリテーション後に各種運動機能の改善と本A蛋白の相関が、有意差を持って確証された。すなわち、これらの血中A蛋白量は、骨格筋量が多く同化作用が促進する(anabolic)環境では値が増加し、一方、代謝の亢進、炎症といった異化作用が促進する(catabolic)環境では値が減少する可能性が強く示唆された。
2: おおむね順調に進展している
昨年度の目標としては、(地独)東京都健康長寿医療センターが保有する1,000検体以上のサンプルをMUSTag法を用いてA蛋白量を測定し、当初仮定した、A蛋白量とサルコペニアの筋肉量が相関することやリハビリ後の効果を反映するかどうかの評価を行うことであった。MUSTag法による測定方法も最適化が終了し、実際に1,000例以上の血清を用いた測定を行う事で、私達が仮定していた内容がほぼ証明された。これらの点では、十分に目標が達成されたと考えている。
本申請で進めるべきサイトカイン等の測定に関しては、まだ、十分進んでないことより、本年度はこれらの測定を進め、総合的に確実にサルコペニアやリハビリ後の指標となるバイオマーカーの組み合わせを決定すること、同時に、本A蛋白量の変化が代謝や炎症などのとの関連の有無、等に関してもさらに詳しい解析を行う予定である。また、イムノクロマト法を用いた、簡便な測定法も考慮に入れ開発を進める予定である。
本年度の計画の中で、サルコペニア特異的なバイオマーカー以外に、IL-6やTNFa等のサイトカインの血液中の変化量を測定する予定であったが、症例数が1,000症例以上に達し、年度内に測定する事ができなかった。この測定費用334,165円が残ったため、来年度に繰り越すことになった。H26年度は、上記測定できなかったIL-6およびTNFaの測定を計画している。これまで使用した1,000例以上のサンプルの中から、サルコペニア特異的なバイオマーカー上昇例200例程度、および被上昇群200症例程度の抽出サンプルにて測定し、サルコペニアに相関するかどうか検定する。これらの総合的な結果を基に、サルコペニアおよびリハビリ後の回復に相関したバイオマーカーの組み合わせを検討し、さらにその組みあわせにて再検討する予定であり、その費用に繰越金の334,165円を充当する事を計画している。
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