白金製剤オキサリプラチン(OHP)の副作用として、寒冷曝露によりしびれなどの急性末梢神経障害が惹起されることが知られているが、同様にマウスにおいて生じるOHP誘発冷過敏応答に、ROS産生および感覚神経のredox感受性TRPA1の過敏化が関与することを明らかにしてきた。本年度は、ヒトTRPA1を発現するHEK293細胞および培養後根神経節(DRG)神経を用いて、OHPによるTRPA1過敏化の分子機構を検討した。その結果、OHPおよびその代謝物oxalate(シュウ酸)の処置により、プロリン水酸化酵素(PHD)阻害により発現誘導することが知られる低酸素誘導因子(HIF)-1αが誘導されたことから、OHPおよびoxalateはPHD阻害作用を有していることを明らかにした。また、ヒトTRPA1はPHDにより394番目のプロリン残基が水酸化されることにより常時抑制されているが、OHPおよびoxalateのPHD抑制作用により、Pro394の脱水酸化が生じ、その結果、ヒトTRPA1の過酸化水素に対する応答が過敏化することを、変異型PHD1/2/3およびPHDとの相互作用を示さない変異型TRPA1 P394Aを用いることで明らかにした。これらの結果から、OHPはその特徴的な代謝産物oxalateがPHDを抑制することにより、TRPA1のPro394の水酸化を抑制し、その結果、ROSに対する過敏化が生じることを明らかにした。また、同様に、正座直後のしびれを再現するために昨年度作製したマウス後肢虚血/再灌流しびれモデルにおいても、TRPA1の過敏化が関与することを明らかにし、またhTRPA1/HEK293細胞において、30分の低酸素負荷により過酸化水素に対する応答が増強することを明らかにし、不快な異常感覚(しびれ)の発症にTRPA1の過敏化が関与することを明らかにした。
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