研究課題/領域番号 |
25670286
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研究種目 |
挑戦的萌芽研究
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研究機関 | 札幌医科大学 |
研究代表者 |
小海 康夫 札幌医科大学, 医学部, 教授 (20178239)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 神経因性疼痛 / メタロチオネイン / 分子パスウエイ |
研究概要 |
神経障害性疼痛(NP:neuropathic pain)は、慢性持続する高度の疼痛を主徴とする難治疾患である。臨床所見からかけ離れた高度な痛みが主症状であることから客観的な診断が困難であり、診断が困難な症例では詐病との鑑別が必要など、医療者・患者双方にとって多大の困難をもたらし、患者本人、家族、社会に深刻な問題を与えている。NPは、がん性疼痛、糖尿病性神経障害に伴う痛みや複合性局所疼痛症候群(CRPS)など、多くの疾患を含むことが明らかとなりつつあり、近年その重要性が増している。申請者らの見い出したCRPS患者の障害末梢神経におけるメタロチオネイン(MT)の欠損は、当該分野において初めて発見された分子レベルの変化である。この発見を契機として分子レベルの理解がほとんど無いといってもいいNPの分子レベルの病態解析を可能にする入口に立つことができた。現在まで、まったく客観診断の方法が存在しなかった神経障害性疼痛を客観診断できる可能性がある。このことは、神経障害性疼痛という難病に対する初めての分子レベルでの情報である。いまだに不明な点が多いCRPS障害神経の解析を契機としMTという分子のウインドウからNPの疼痛に関わるタンパク質群のパスウエイを観察する分子レベルの疼痛病理学的解析が可能となった。本研究が成功した場合、単に診断体系の確立が可能となるばかりでなく、NPの疾病概念の整理にも大いに貢献することが可能となる。さらに、直接MTをまたは重要な分子パスウエイ中の標的を同定する道を目指して網羅的な抗体アレイを用いた発現タンパク質解析を実施し、新な分子標的診断および治療系への発展を期した取り組みを行った。これらの成果は、がん性疼痛、糖尿病性神経障害に伴う痛みなどの多くの機序不明の神経障害性疼痛の分子レベルでの理解を可能にする大きな発展が期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
NPは、がん性疼痛、糖尿病性神経障害に伴う痛みや複合性局所疼痛症候群(CRPS)など、多くの疾患を含むことが明らかとなりつつあり、近年その重要性が増している。NPのうち、CRPS は骨折、組織傷害や神経損傷などを契機として発症する慢性疼痛症候群であり、灼熱痛、痛覚過敏、異痛症のような感覚障害に加えて、血管運動障害や浮腫・発汗機能障害、運動・栄養障害の症状を呈する。本学整形外科では徹底的な保存治療を行ったにもかかわらず耐え難い疼痛が残存するCRPS症例に限定して神経切除術を行いその成績を報告している(J Bone Joint Surg (Br).1998;80:499-)。その結果、疼痛と障害神経の密接な関係が示唆された。申請者らは、末梢神経のプロテオミクス解析系を確立し、手術切除されたCRPS障害末梢神経と新鮮遺体より摘出した腓腹神経をコントロール群としたプロテオミクス解析系によりCRPS障害神経でのメタロチオネイン(MT)の特異的な発現欠損を見出した。さらにプロテオミクス解析の結果からCRPS障害末梢神経ではMTの発現が欠損していることをタンパク質レベルで確認した。本研究によりMTの発現欠損は、CRPS障害神経の客観的診断に有用な情報を提供できる可能性が示唆された。そこで、MTを出発点としたNPに関わるタンパク質群を網羅的に検討し、疼痛に関わるタンパク質分子群を同定し、分子レベルでの疼痛プロアイルを構築し、診断治療へ向けた基礎的情報を提供することを目指した。CRPS患者疼痛末梢神経および新鮮遺体より採取した腓腹神経よりSDS存在下にタンパク質をSDS不溶性および溶性分画として抽出し、725種類のタンパク質の発現を比較検討した。現在、これらのタンパク質中で優位に増加または減少した分子について検討を進めている。
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今後の研究の推進方策 |
神経障害性疼痛(NP)の客観的診断方法を開発することを目指し、CRPS障害神経における炎症、疼痛関連分子の詳細な検討と患者血清での発現検討を行い、NPの分子プロファイルを分析し、客観的な診断系の確立を目指したタンパク質レベルの基礎的情報を得る。本研究が成功した場合、単に診断体系の確立が可能となるばかりでなく、NPの疾病概念の整理にも大いに貢献することが可能となる。さらに、直接MTをまたは重要な分子パスウエイ中の標的を同定する道にもつながり、新な分子標的診断および治療系への発展も期待される。これらの成果は、がん性疼痛、糖尿病性神経障害に伴う痛みなどの多くの機序不明の神経障害性疼痛の分子レベルでの理解を可能にする大きな発展が期待される。たとえば癌の末期患者にとって疼痛の管理は、もっとも重要な医療であり、QOLの観点からの最重要課題である。現在も続く多くの患者そして医療者の努力をさらに有効な治療体系へ結びつけるために、分子レベルの理解を推進することが何よりも重要であることに異論はない。本研究により、新たに神経障害性疼痛の臨床に新規の原理が加わり、画期的な成果へとつながることが期待される。各種神経サンプルを用いて、実サンプルおよびin silicoで得られた情報を繰り返し実サンプルの神経および患者血清で検討して発現タンパク質を選定し、客観的診断のためのタンパク質発現プロファイルを得る。具体的には、(1)CRPSで欠損しているMTが関わる分子情報をin silico(パスウエイ解析、文献など)で収集、(2)質量分析および抗体アレイなどで得た実サンプル情報から出発しin silico解析で情報収集、(3)を合わせたCRPSのタンパク質プロファイルに基づいた、末梢神経および患者血清の発現タンパク質の再評価を繰り返し、CRPSタンパク質プロファイルを構築し診断系を目指す。
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次年度の研究費の使用計画 |
最大限有効に研究費を使用した結果、当該金額が生じた。 消耗品として適切に使用する計画である。
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