神経障害性疼痛(NP:neuropathic pain)は、慢性持続する高度の疼痛を主徴とする難治疾患である。臨床所見からかけ離れた高度な痛みが主症状であることから客観的な診断が困難であり、診断が困難な症例では詐病との鑑別が必要など、医療者・患者双方にとって多大の困難をもたらし、患者本人、家族、社会に深刻な問題を与えている。NPは、がん性疼痛、糖尿病性神経障害に伴う痛みや複合性局所疼痛症候群(CRPS)など、多くの疾患を含むことが明らかとなりつつあり、近年その重要性が増している。申請者らの見い出したCRPS患者の障害末梢神経におけるメタロチオネイン(MT)の欠損は、当該分野において初めて発見された分子レベルの変化である。この発見を契機として分子レベルの理解がほとんど無いといってもいいNPの分子レベルの病態解析を可能にする入口に立つことができた。現在まで、まったく客観診断の方法が存在しなかった神経障害性疼痛を客観診断できる可能性がある。このことは、神経障害性疼痛という難病に対する初めての分子レベルでの情報である。いまだに不明な点が多いCRPS障害神経の解析を契機としMTという分子のウインドウからNPの疼痛に関わるタンパク質群のパスウエイを観察する分子レベルの疼痛病理学的解析が可能となった。本研究により、単に診断体系の確立の可能性が示されたばかりでなく、NPの疾病概念のなかに酸化ストレスとスキャベンジャーとしてのMTの関わりが分子レベルで示された。さらに、タンパク質アレイの同時解析により重要な分子パスウエイの同定および診断治療標的候補分子を複数同定できた。今後は本研究の成果を発展させ、がん性疼痛、糖尿病性神経障害に伴う痛みなどの多くの機序不明の神経障害性疼痛の分子レベルでの理解に取り組むことを可能とする分子基盤の活用による大きな発展が期待される。
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