研究課題/領域番号 |
25670291
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研究種目 |
挑戦的萌芽研究
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
岸 玲子 北海道大学, 環境健康科学研究教育センター, 特任教授 (80112449)
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研究分担者 |
室橋 春光 北海道大学, 教育学研究科(研究院), 特任教授 (00182147)
池野 多美子 北海道大学, 環境健康科学研究教育センター, 特任講師 (80569715)
白石 秀明 北海道大学, 大学病院, 助教 (80374411)
宮下 ちひろ 北海道大学, 環境健康科学研究教育センター, 特任助教 (70632389)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 環境疫学 / ADHD / 喫煙曝露 / 環境遺伝交互作用 / 葉酸 |
研究概要 |
本研究では大規模出生コホートに参加している8歳児に対し、国際的に使用されているConners3P(ADHD関連症状調査票)とADHD-RS、現在の生活環境などについて質問票調査を行い、胎児期の母の喫煙状況や葉酸摂取など環境因子がどのようにアウトカムのリスクをあげているか検討する。さらに、コホート内症例対照研究デザインでDAT1、DRD4ほかADHDに関わりの深い神経伝達遺伝子多型と臍帯血メチル化の測定を行うことにより、発達障害に関わるSNPs とDNAメチル化を介したメカニズムを明らかにする。今年度の実績は次の通りである。 (1)8歳児調査票に回答した1,273名(男667名、女606名)の中で、既に医師による診断を受けた児はADHDが24名(1.9%)、発達障害が36名(2.8%、ADHDとの重複6名あり)であった。Conners3Pによる症状得点は、不注意得点平均5.7点/最高30点、多動衝動性得点平均4.5点/最高42点、総合指標得点1.6点/最高20点であった。男女別では、不注意得点、多動衝動性得点が男児で高かった(p<0.001)。 (2)妊娠中血漿コチニン濃度により評価した母の喫煙のADHD症状得点への影響を検討した。妊娠中に母親が喫煙していた児は多動衝動性得点が高く(p=0.041)、妊娠中血漿コチニン濃度と不注意得点、多動衝動性得点が正相関(p=0.002,p<0.001)していたが、年収や養育環境などで調整すると関連は消失した。喫煙よりも社会経済環境の影響が大きいことがわかった。今後、層別解析を行って検討する必要がある。 (3)妊娠初期血清葉酸値を測定済みの1,174名について、ADHD症状得点と葉酸値との関連を検討した。妊娠初期血清葉酸値は平均8.4ng/ml、葉酸サプリメント摂取は11.1%であった。葉酸値とADHD症状の各得点とは単変量解析で関連が認められなかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
大規模出生コホート(登録者数20,929名)のうち8歳に達した児を対象としたADHD関連症状調査票(Conners3PとADHD Rating Scale(ADHD-RS))を用いて我が国で出生コホートで検討したのは初めてであり、既に1,905名分を回収している。さらに、ADHDとASD(自閉症スペクトラム障害)を鑑別するためのASQ(Autism Spectrum Questionnaire)や養育者のサポート状況、母親の抑うつ状態など、詳細な追加質問票を1,572名から回収している。一部であるが、対面調査に同意を得られた73名からは、WISC-IV(認知機能)とCBCL、養育者ストレスなどの情報を収集済みである。曝露物質測定として、喫煙を客観的に評価するためのコチニン値は妊娠後期母体血で16,060名、葉酸値は妊娠初期母体血で19,047名分の測定を終了している。ADHDリスク遺伝子多型とメチル化部位の測定では、DNA抽出や分析器機操作に習熟しており、症例対照群を選定次第、分析に取りかかる予定である。
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今後の研究の推進方策 |
引き続き平成25年度と同様の調査を1,590人に対して継続するとともに、下記を行う。 (1)ADHD症例群で疾患が疑われた場合は、希望者に対しての相談を行い、必要な場合には医療機関を紹介し、早期介入に繋げる。 (2)Conners3Pの信頼性および妥当性の評価を行う。すでに信頼性と妥当性が検証されているADHD-RSを外的基準として、基準関連妥当性を確認する。Conners3P得点を盲検化して、医師によるADHDの臨床診断と対照群の臨床診断に基づいたConners3Pの外部妥当性を検討する。信頼性は、内部一貫性の指標であるCronbachのα係数で算出し、ADHDの不注意や多動衝動性などの症状について、ADHD-RSでの結果と比較検討する。 (3)環境遺伝交互作用によるADHD発症のリスク要因を数量化するため、Conners3Pの不注意、多動衝動性、総合指標の各得点のT得点65以上をケースとして、ケースと対照群を各50名抽出し、ADHD発症に係わる環境要因が遺伝要因とどのような交互作用を持つかを解析する。特に、ADHDの候補遺伝子(COMT、 DRD1/2/3/4/5TH、MAOAなどの単塩基多型およびDAT1、DRD4のコピー数多型)および葉酸代謝酵素関連遺伝子(MTHFR、MS、MTRR、CBS)、喫煙に関連する遺伝子(CYP1A1、 CYP1B1、 AhR、 AhRRなど) の多型・ハプロタイプ解析を行う。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成25年度に実施予定であった対面調査の一部(約30名分)を次年度に延期したため、謝金(謝礼:図書カード)及びそれに伴う費用(発送物等)の支出が繰り越しになった。 平成26年度に前年度実施予定であった約30名分も含めた対面調査の実施により、発生する謝金として使用する。
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