1)症例対照の同定と魚関連バイオマーカーの測定:コホート内の全虚血性心疾患発症例約1400例のうち、209症例と性・年齢・地域を一致させた418対照について、血漿n-3系不飽和脂肪酸を測定した。血漿での水銀とカドミウム濃度については、パイロット的に108症例と216対照について測定を行った。 2)魚関連バイオマーカーの中央値:対照集団における血漿エイコサペンタエン酸分画の組成割合の中央値は2.4%であり、過去のわが国の報告とおおむね同様であった。また、水銀、カドミウム濃度の中央値は、それぞれ2.6 ng/g、0.087 ng/gであった。 3)魚関連バイオマーカーと虚血性心疾患発症との関連:本研究の仮説は、①血漿n-3系不飽和脂肪酸は動脈硬化性疾患のリスクと負の関連を示すが、②血漿中の重金属が多い場合は、この関連は弱まる、である。①の仮説について、性、年齢、喫煙、飲酒、body mass index、収縮期血圧値、血清総コレステロール値、糖尿病、および降圧治療、高脂血症治療の有無を調整した多重ロジスティックモデルでは、血漿エイコサペンタエン酸と虚血性心疾患発症との間には負の傾向が認められたが、統計学的に有意ではなかった。②の仮説については、①の分析を血漿水銀、カドミウム濃度のそれぞれの中央値により層別した分析を行った。その結果、いずれの層においても、それぞれ負の傾向が認められた。統計学的有意差は検出されず、確定的な結論は得られないが、重金属の濃度が高い人では魚の循環器疾患予防効果が減弱するとする当初の仮説は支持されず、重金属濃度にかかわらず魚の循環器疾患予防効果が認められる可能性がある。
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