研究課題
挑戦的萌芽研究
微小粒子状物質は吸入曝露により呼吸器で慢性炎症を惹起し、発がんや線維化などの健康障害を起こしうる。しかし、これらの物質が慢性炎症を起こす分子機構には現在でも不明な点が多い。我々は、多層カーボンナノチューブ(MWCNT)がエンドサイトーシスにより肺上皮細胞に取り込まれ、一酸化窒素(NO)産生などの炎症反応を惹起することを報告した(Toxicol Appl Pharmacol, 2012)。本課題では、エンドソームやリソソームに存在する分子を介して、粒子状物質が炎症反応や発がんなどの疾病をもたらす機構を明らかにする。今年度は、MWCNTで処理したヒト肺胞上皮由来のA549細胞を用いて検討を行った。炎症反応については、NO産生により生じるDNA損傷塩基8-ニトログアニンの生成を指標とした。繊維長の長いMWCNT(5-15 um)は短いもの(1-2 um)より有意に強く8-ニトログアニンを生成し、いずれの場合もその生成はエンドサイトーシス阻害剤で抑制された。現在、エンドソームやリソソームに存在するToll-like receptor (TLR)の関与について検討を進めており、siRNAを細胞内に導入してTLRの発現を蛋白レベルで低下させる条件を確立している。さらに、ネクローシスを起こした細胞から放出される核蛋白HMGB-1が細胞内に取り込まれてリソソームのTLRに認識されるシグナル伝達経路の関与について検討を行っており、特異抗体などによる8-ニトログアニン生成への抑制効果の解析を始めている。またヒト肺組織において、石綿繊維量と8-ニトログアニン生成の強さが有意に相関することを明らかにし、粒子状物質の発がんリスク評価に応用出来る可能性を明らかにした(J Occup Health, 印刷中)。
2: おおむね順調に進展している
粒子状物質が炎症反応を起こす分子機構を解析するための実験手法を確立しつつある。エンドソームやリソソームに存在する分子のsiRNA導入によるノックダウンおよび関連分子の特異抗体を用いた炎症反応の抑制実験に着手している。
培養細胞ではsiRNA導入および特異抗体を用いた実験を進め、粒子状物質による炎症反応に関わる分子を特定する。さらに、当該分子のノックアウト動物や阻害剤を投与した動物を用いて、粒子状物質による呼吸器の線維化や発がんへの抑制効果を検討し、エンドソームやリソソームの疾病発症における役割を明らかにする。
当該年度に行う実験にかかる経費が当初の予定より少なくて済んだため、直接経費の一部を次年度に持ち越すこととなった。次年度分の研究費と合わせて、粒子状物質が炎症反応を起こす分子機構の解析に必要な試薬、抗体および消耗品などの購入に使用する予定である。
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http://www.medic.mie-u.ac.jp/eiseigaku/