研究課題/領域番号 |
25670313
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研究機関 | 三重大学 |
研究代表者 |
平工 雄介 三重大学, 医学(系)研究科(研究院), 講師 (30324510)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 粒子状物質 / エンドサイトーシス / リソソーム / 炎症 / 発がん / カーボンナノチューブ / 石綿 / Toll-like receptor |
研究実績の概要 |
微小粒子状物質は吸入曝露により呼吸器で慢性炎症を惹起し、発がんや線維化などの健康障害を起こす。しかし、これらの物質が慢性炎症を惹起する分子機構には未だ不明な点が多い。我々は以前、多層カーボンナノチューブ(MWCNT)がエンドサイトーシスにより肺上皮細胞に取り込まれ、一酸化窒素(NO)の産生を介してDNA損傷塩基8-ニトログアニンが生成されることを報告した。本課題では、エンドソームやリソソームに存在するToll-like receptor (TLR)およびその活性化経路の炎症反応への関与について検討を行った。ヒト肺胞上皮由来のA549細胞にTLR9のsiRNAを導入してその発現を抑制すると、MWCNTによる8-ニトログアニン生成は有意に減少した。ネクローシスを起こした細胞から放出される核蛋白HMGB1とその受容体RAGEはTLR9の活性化に関わることが知られており、がんなどの疾病への関与が報告されている。HMGB1およびRAGEに対する抗体で細胞を前処理すると、MWCNTによる8-ニトログアニン生成は抑制された。MWCNTで処理した細胞の培養上清中にはHMGB1と二本鎖DNAの放出が認められ、これらが複合体を形成してRAGEに結合し、TLR9の活性化に関わると考えられた。これらの知見は繊維長の長いMWCNT (5-15 um)および短いMWCNT (1-2 um)の両者で認められた(論文作成中)。またヒト肺組織において、石綿繊維量と8-ニトログアニン生成の強さが有意に相関し、石綿肺癌の労災認定基準に記載のある1 um以上の繊維に限定するとその相関はさらに強くなることを明らかにした(J Occup Health 2014)。以上の結果から、8-ニトログアニンおよびその生成過程に関わる分子は、繊維・粒子状物質の発がんリスク評価指標および疾病予防の標的になりうると考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
粒子状物質が炎症反応を起こす分子機構を解析するためのsiRNAや特異抗体を用いた実験手法を確立し、エンドソームやリソソームに存在する分子が炎症反応に関わるという興味深い知見が得られている。さらに他の物質についても同様の検討を進めているところである。
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今後の研究の推進方策 |
培養細胞ではsiRNA導入および特異抗体を用いた実験をさらに進め、種々の粒子状物質による炎症反応に関わる分子の特定とメカニズムの解析を行う。さらに当該分子のノックアウト動物などを用いて、粒子状物質による炎症を介した呼吸器疾患への抑制効果を検討し、エンドソームやリソソームの疾病発症における役割を明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度の研究遂行に要した経費はほぼ計画どおりであったが、前年度から持ち越した経費があったため、小額の次年度使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度分の研究費と合わせて、実験に必要な試薬や消耗品の購入に使用する予定である。
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