研究課題
微小粒子状物質は吸入曝露により呼吸器に蓄積し、慢性炎症を惹起して発がんや線維化などの健康障害をもたらす。しかし、これらの物質が炎症反応を誘導する分子機構には不明な点が多い。我々は、多層カーボンナノチューブ(MWCNT)で処理したヒト肺胞上皮由来のA549細胞および気管支上皮由来のHBEpC細胞において、炎症条件下で産生される一酸化窒素(NO)を介したDNA損傷塩基8-ニトログアニンの生成を認めた。8-ニトログアニン生成は、エンドサイトーシス阻害剤、核蛋白HMGB1とその受容体RAGEに対する抗体、およびToll-like receptor (TLR) 9のsiRNAにより抑制された。MWCNTで処理した細胞の培養上清中にはHMGB1と二本鎖DNAの放出を認めた。免疫細胞染色および免疫沈降法により、MWCNTに曝露した細胞内では、TLR9がHMGB1およびRAGEと相互作用することが明らかになった。以上の結果に基づき、我々は、MWCNTが細胞を傷害してHMGB1とDNAを放出させ、その複合体が近傍の細胞表面のRAGEに認識され、リソソームに取り込まれてTLR9を活性化し、炎症反応と遺伝毒性を誘導するという新規発がん機構を報告した(Part Fibre Toxicol 2016)。また、MWCNTを気管内投与したラットの肺組織においても8-ニトログアニンの生成を認めた。さらに、動物で肺癌を起こすカーボンブラックやインジウム化合物を用いた実験でも、A549細胞やマウスマクロファージ由来のRAW264.7細胞で8-ニトログアニンの生成を認め、同様の分子機構の関与を示唆する知見を得ている。上記に示した分子は、粒子状物質による疾病のリスク評価および予防・治療の標的になりうると考えられる。
すべて 2016 2015 その他
すべて 雑誌論文 (5件) (うち国際共著 3件、 査読あり 5件、 オープンアクセス 4件、 謝辞記載あり 5件) 学会発表 (6件) (うち国際学会 1件) 備考 (1件)
Part. Fibre Toxicol.
巻: 13 ページ: 16
10.1186/s12989-016-0127-7
J. Nanopart. Res.
巻: 18 ページ: 52
10.1007/s11051-016-3340-2
Mediators Inflamm.
巻: 2016 ページ: 7937814
10.1155/2016/7937814
Oncotarget
巻: 6 ページ: 35893-35907
10.18632/oncotarget.5651
Cancer Biol. Ther.
巻: 16 ページ: 1042-1046
10.1080/15384047.2015.1045692
http://www.medic.mie-u.ac.jp/eiseigaku/