化学物質を取扱う労働者は、ほとんどの場合、複数の化学物質を取扱っているので、健康リスクを評価する際には、複数の化学物質の同時曝露(複合曝露)を考慮する必要がある。本研究は、歴史的コホート研究などによって、化学物質の複合曝露を受けた労働者の発癌リスクを評価した。平成28年度の実施状況は以下の通りである。①歴史的コホート研究によって把握された対象者の中から、発癌患者を症例群とし、発癌患者の性、年齢および就労時期をマッチングさせた非発癌者を対照群とした、コホート内症例対照研究(nested case-control study)を実施した。②統計学的手法を用いて同様の化学物質曝露を受けた他の労働者集団の歴史的コホート研究を統合して解析するメタ・アナリシスを実施し、この成果を学会や論文にて公表した。研究期間全体を通じて実施した研究の成果については、①発癌性化学物質は、既知の標的臓器以外の部位の発癌性を高める可能性があるが、発癌性化学物質の複合曝露による発癌リスクには相加的効果や相乗的効果は認められなかった。②発癌性化学物質の取扱い歴のない労働者集団では、職場で取扱った化学物質の複合曝露による発癌リスクの上昇は認められなかった。ただし、本研究には、化学物質の発癌情報が乏しいこと、長期間にわたる化学物質の取扱い履歴のデータ化が困難であったこと、など限界があった。今後、更なる化学物質の複合曝露に関連する健康影響を調査・検討するとすれば、現役の従業員を対象とした、過去数年間の取扱薬品の情報を基にした複合曝露を基に、中期的な健康影響であり、なおかつ発癌のような重篤な健康障害ではなく、修復可能な健康影響を評価することが、より有効な健康障害防止対策につながるのではないかと思われる。
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