本研究では、平成11年以降に出された医療訴訟判決を既存の民間判例データベースに加え、東京地方裁判所医療集中部設立以来の全判決より収集し、データベース化を行った上で、診療科別・疾患別に分析し、具体的、実用的な医療安全対策を検討した。 得られた医療訴訟判決は1386件であった。診療科別では、内科(267件、19.3%)が最も多く、以下、産婦人科(193件、13.9%)、外科(164件、11.8%)、脳神経外科(98件、7.1%)、整形外科(96件、6.9%)と続いた。内科をさらに詳細に分類したところ、消化器内科が67件(25.1%)と最も多く、以下、循環器内科58件(21.7%)、呼吸器内科32件(12.0%)と続いた。同様に外科をさらに分類したところ、消化器外科が88件(53.7%)と最も多く、次いで循環器外科28件(17.1%)と続いた。 消化器疾患に関する判決は、内科外科合わせると計155件あり、これを疾患別に分類すると、最も多い疾患が肝細胞癌で23件(14.8%)あり、以下、大腸癌20件(12.9%)、胃癌17件(11.0%)、腸閉塞12件(7.7%)、食道癌5.2%(8件)と続いた。 肝細胞癌に関する訴訟の争点で最も多いのが、サーベイランスであり、43.5%(10件)を占めていた。次いで手術適応6件(26.1%)、手技ミス4件(17.4%)と続いた。 サーベイランスに対する医療安全対策として、電子カルテシステム上、B型肝炎やC型肝炎、慢性肝炎、肝硬変といった病名が入力された場合、自動的に6か月ごとに腫瘍マーカー及び腹部超音波検査がオーダーされるようなシステムとし、主治医が不要と判断した場合に削除することとすれば、人の注意力に依拠せず、システムとして同種事故の発生が防止できると考えられた。 同様に各疾患について医療安全上の対策が検討され、今後、実装に向けた研究を行う予定である。
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