手術中の術者の疲労やストレスが医療の質や安全に与える影響は少なくないが,最近増加している低侵襲手術では,患者にはやさしい反面,術者には逆に負担が大きいと言われている.術者の疲労やストレス状況の評価に関しては循環系などでごく限られた知見を得ているに過ぎない.本研究においては,全く新しい指標として術者の音声を解析し,手術進行状況との対比,検討し,手術中の術者の疲労やストレスと音声の関連を調べた. 手術中に術者の音声を48kHzのサンプリング周波数で記録し,音圧,音声周波数を取得する.周波数帯域フィルタリングを行い(この手順は途中から省略),得られた音声記録を10mS幅のウィンドウでFast Fourier Transform (FFT)解析し,得られたパワースペクトルから最大のパワー(Max Power)と,最大のパワーを示す周波数(Max Frequency)を算出した.Max Powerが100未満は発語が無いとし,その時のMax Frequencyの値を0とした.Max PowerとMax Frequencyの時系列データを作成し,手術ビデオと比較検討して,手術状況と音声周波数解析結果の関連を検討した. 負担がかかる操作,出血に対する対処,などストレス下では通常時にくらべてMax PowerとMax Frequencyの両者が高値のプロットが多い傾向を得た.また,画面のくもりなど軽度のストレス(イライラ)でも,PowerとFrequencyが高値のプロットが多いが,低Powerで高frequencyのプロットが少なかった.疲労時には周波数上の特徴は見られなかったが,単位時間あたりのプロット数が少ない傾向が見られた.FFTは,測定と同時に解析も行っているため,上述の傾向は,術中リアルタイムに指摘できる可能性がある.
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