研究課題/領域番号 |
25670342
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
山本 敏充 名古屋大学, 医学(系)研究科(研究院), 准教授 (50260592)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 法医学 / ヒト集団遺伝学 / 人類学 / ゲノム科学 / 遺伝的異質性 / 繰り返し配列 |
研究実績の概要 |
2年度目の本年度は、計画の中で、初年度に、申請時に計画していた手法であるトランスポゾンディスプレイ法がほぼ確立したので、その手法を用いての非連結・既収集試料を用いたゲノム解析研究として、名古屋大学医学部倫理委員会に申請し、承認を得る予定であった。しかし、銀染色法の後、塩基配列を決定するよりも最終的な増幅産物を得る2回目のPCR増幅に使用するAlu特異的プライマー(CACTGCAACCTGCGCCTC)に蛍光(6-FAM)ラベルしてPCR増幅を行い、この増幅産物をGenetic Analyzer 3102によりキャピラリー電気泳動を行った方がより効率的に個人間・ヒト集団間の差異を検討することが容易であることがわかったので、この方法を用いてPCR条件の検討を行った。その結果、最終的なPCR増幅条件は、ほぼ確立できた。 一方、本研究の当初の目的は、日本人や韓国人など遺伝的に非常に近縁なヒト集団間の異質性を突然変異率の非常に高い分散型の繰り返し配列(特にAlu配列)に着目して新たな配列を探索することがその一つであった。 しかし、研究の途中で、我々が今までに保有している分散型ではないが、縦列反復配列である常染色体上のSTRsにおいても、100以上の座位を用いれば、その可能性があることがカテゴリー分析により示された。 そこで、これらのデータを統計数理学研究所の間野修平准教授と共同して、その統計学的判別法を検討したところ、現在までの日本人5地域(160名)と朝鮮族(64名)のデータを利用した場合には、その判別分析によるベイズ因子から、日本人であることを示すのは、比較的容易であるが、朝鮮族であるということを決定するには、やや不確かさが残り、その原因として、データが、特に朝鮮族のデータが不足していることが示唆され、今後、より多くのデータを収集すれば、より正確な判別が可能であることがわかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度までの計画では、当初予定していた分散型のAlu配列の解析に、トランスポゾンディスプレイ法と、ポリアクリルアミドゲル電気泳動-銀染色法を組み合わせた方法より、より効率的な検出法である蛍光標識特異的プライマー法に変更に時間を費やしてしまった。 その一方で、当初予定していなかった分散型繰り返し領域ではないが、縦列反復配列であるSTRsを100座位以上利用することにより、当初の大きな目的である、遺伝的に非常に近縁な日本人と韓国人を、カテゴリー分析や判別分析により、ある程度区別できる可能性が示唆されたことは、従来の認識を新たにした新しい知見も得ることができ、そのことは、本研究の目的から考えれば、研究自身が非常に進展したと考えられる。 また、この2年間で解析技術も非常に進歩し、申請時における最新技術であった、トランスポゾンディスプレイ法とポリアクリルアミドゲル電気泳動-銀染色法を組み合わせた方法の改良型である、蛍光標識特異的プライマー法による検出法がある程度確立できたことも大きな進展であると言える。 さらに、このような検出の最新技術である、次世代シーケンサMiSeqなどによる方法も、非常に効率よく、個人ゲノム間の、あるいはヒト集団間の遺伝的相違を検出することができるので、残り1年間で、これらの方法を利用するで、当初予定していた新規の分散型繰り返し領域のAluを検出ことは、それほど困難なことではないと予想される。 試料についても、協力者であるソウル国立大学医学部法医学教室の李崇徳教授に直接説明することで、研究の重要性、方法論も十分理解し、共同研究の了解を得たので、韓国人のDNA試料を必要量入手することが可能になった。 このように、倫理委員会の申請が準備・提出段階まで来ているだけで、いまだ承認されていないように思われるが、順番はともかく、研究の全体としては、概ね順調に進展していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
当初は、分散型繰り返し配列の解析のみで、名古屋大学医学部倫理委員会へ、非連結・匿名化した日本人及び韓国人のDNA試料を使用し、本法を応用するゲノム解析研究として申請する予定であった。しかし、昨年度までの研究で、分散型繰り返し配列であるAlu配列ばかりでなく、縦列反復配列であるSTRsを100座位以上解析することにより、当初の目的である日本人や韓国人など遺伝的に非常に近縁なヒト集団間の異質性を利用して、そのような集団を区別できる可能性が示唆された。また、2年間の間に解析技術も進歩し、次世代型シーケンサを用いることにより、トランスポゾンディスプレイ法のような煩雑な操作を行わなくても、集団間で異なるAlu配列の挿入部位を探索できるようになった。さらに、昨年ソウルで開催されたIAFS 2014に参加した際に、研究計画・研究経過及び結果をソウル国立大学医学部法医学教室の李崇徳教授に説明し、共同研究の確約を得ることができ、これまで以上に韓国人の試料を得ることが可能になった。そこで、分散型のAlu配列の解析ばかりでなく、縦列反復配列であるSTRs解析、さらに、新技術の導入を含め、非常に近縁なヒト集団の区別という最終的な研究の目的に即した申請を倫理委員会に申請する予定である。 最終年度である本年度においては、蛍光標識プライマーによるトランスポゾンディスプレイ法による新規Alu配列の探索、及び日本人と韓国人の比較という継続研究を行う。それに加え、これまでに使用してきたAluY特異的プライマーによる、次世代シーケンサMiSeqなどで新規Alu配列を同定するとともに、日本人と韓国人との間の異なる挿入部位の探索を行う。 一方、100以上の常染色体STRsについては、李教授の協力のもと、より多くの韓国人サンプルを解析し、より多くデータから、さらに確度の高い判別解析法を間野銃教授と協力して確立する。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初予定していた消耗品が、予定価格より安価に購入できたため。
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次年度使用額の使用計画 |
研究がさらに発展的に遂行できるように、STR解析のための合成酵素を購入する予定である。
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