本研究では、トランスポゾンディスプレイ法を確立することが第一の目的である。申請時には、銀染色法の後、塩基配列を決定する方法がよいと考えていたが、前年度まで研究により、蛍光ラベルしてPCR増幅を行い、この増幅産物をGenetic Analyzer 310によりキャピラリー電気泳動を行った方がより効率的に個人間・ヒト集団間の差異を検討することができることがわかった。そこで、Alu配列の中で、より新規なファミリーであると考えられているAlu Yファミリーに着目し、そのファミリーの共通配列領域に存在する制限酵素Mse I切断部位を切断後、アダプター付加後、アダプター付加サイトをPCR増幅した。その結果、非常に均等なスメアの電気泳動像が得られたので、最終的に2回目のPCR増幅に蛍光色素(6-FAM)標識したAlu特異的プライマー(GACGGAGTCTCGCTCTG)を用いて増幅した。そのPCR産物を、キャピラリー電気泳動を行ったところ、様々な大きさのフラグメントを得ることができた。そこで、日本人数名のDNA試料に、この方法を応用したところ、共通のフラグメントばかりでなく、個人間で異なる大きさのフラグメントを得ることができたので、ヒトAlu Yに関するトランスポゾンディスプレイ法を確立することができた。 一方、本研究では、遺伝的に非常に近縁なヒト集団間の異質性を突然変異率の非常に高い分散型反復配列着目して、新たな配列を探索することがその目的の一つであった。しかし、縦列反復配列のSTRsでも100以上の座位を用いれば、その可能性があることがカテゴリー分析により示され、これらのデータから統計学的判別法を検討したところ、その判別分析によるベイズ因子から、約92%の日本人が、朝鮮族から容易に区別できることが判明した。その成果を、クラクフで開催された第26回国際法医遺伝学会等で発表し、論文としても掲載された。
|