法医解剖123例の連続組織切片による刺激伝導系心筋の病理形態解析の結果、水平法による標本作製で鑑別かつ詳細な検討が可能であり、同法は特に洞房結節の形態観察および刺激伝導系心筋密度の画像解析に有用であった。房室結節の刺激伝導系心筋密度と年齢には負の相関がみられた。 房室結節部は、立体的な構造評価には従来同様垂直法が有用であった。病理組織観察の結果、線維化や脂肪化などの病的所見が23%に認められた。死因との出現率の関係は、剖検によってもできない突然死群で25%、虚血性心疾患群で45%、上記以外の心疾患群で15%、その他の死因群で18%と、不整脈の関連のない疾患においても病的所見が認められる例があった。不整脈の誘引と考えられていた房室結節動脈の内膜肥厚は中心線維体を通過部で対象全例に認められ、解剖学的構造と考えられた。 遺伝子解析として対象のうち7例に不整脈関連13遺伝子の全エクソン解析を実施した結果、SCN1B遺伝子の L210P変異、KCNQ1遺伝子のA511T変異、SCN5A遺伝子のH558R変異、KCNE1遺伝子のS38G変異の4種が確認された。しかしいずれの変異も不整脈死例と非不整脈死例ともに認められたことから、確認された変異を直ちに不整脈死と関連づけるのは困難と考えられた。同時に実施した病理組織解析では2例の房室結節系に軽微な病理所見を認めたが、不整脈死を積極的に示唆する所見ではなかった。 以上より、病理形態解析および遺伝子解析における病的所見はいずれも不整脈死に特異的ではなく、法医解剖の突然死例を不整脈死と診断する場合、病的所見の評価には慎重な判断が必要と考えられた。
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