本研究の主な目的は、頭部外傷による虚血侵襲をを受けた剖検脳において、成人脳のニューロン再生の舞台として知られてる側脳室・脳室下帯(及び上衣細胞)の形態学的変化を病理組織学的に解析することである。さらに研究で得られた結果から神経再生のメカニズムを解析し、最終的には脳の再生医療に有益な情報を法医学領域より提供することを目指す。 通常、頭部外傷事例を解剖する機会を持つのは、(病理学者ではなく)法医学者である。したがって、法医解剖からのみ得られるヒト頭部外傷の剖検脳を用いての神経再生に関する研究には前例がなく、独創的である。 以上のことから、研究計画立案時より、本研究遂行のために特に重要なプロセスは、解析に必要な数の頭部外傷事例、及び年齢をマッチさせた対象事例の集積であったが、平成27年度、平成28年度とも必要とされる頭部外傷事例の数自体が少なく、さらにいくつかの頭部外傷事例は、死後変化の影響が強かっため、本研究から外さざるを得なかった。 集積された事例に関しては、組織ブロック及びルーチン染色標本までは作成したが、免疫組織化学染色に関しては、染色条件を決定し、手技を安定させてから集積した事例すべてを染色した方が好ましいという観点から、予備実験として数例を染色したのみである。なお、これらの予備染色は、ルーチン染色と合わせて、脳室下帯の正常構造を把握するために役立てた。 研究期間中には、頭部外傷、法医病理、神経病理、神経解剖、神経科学、画像神経診断に関する多くの学会、セミナー、研究会に参加したが、今後の実験の継続に必要である最新の情報を得るために非常に有益であった。科学研究費助成事業の助けによって得られた研究実績を土台として、今後とも本実験を継続して行く予定である。
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