研究概要 |
遺伝子の非翻訳領域から転写されるnon-protein-coding RNAの中で、small RNAに分類される19-22塩基のマイクロRNAは、環境変化に適応するための遺伝子発現を調節するいわゆるストレスコーピング反応に重要な役割を果たすことが想定されている。本研究では、1)マイクロRNAを介した生体のストレスコーピング反応とストレス脆弱性のゲノム基盤、及び、2)マイクロRNA発現異常の分子病態基盤の解明を目指した。平成25年度は、研究計画にもとづき、以下の研究を実施した。 1)健常人のストレス応答性マイクロRNAの解析:医師国家試験受験者25名を対象とした解析を進め、急性ストレス応答性マイクロRNAであるmiR-16, miR-144, 及び、miR-144*に加え、miR-20b, miR26b, miR-29a, miR-126, miR-223が国家試験前、2か月以上にわたり末梢血で増加することを見いだし誌上発表した(PLoS One)。さらに、ストレスのコホート研究を行っている民間病院の職員95名を対象に、質問紙(GHQ-28、自己記入式抑うつ評価尺度SDS、STAI、社会格差と健康、いじめ、対人応答性尺度)による調査を行い、これら8種類の慢性ストレス応答性マイクロRNAの有効性を検証するとともに、マイクロRNAの発現異常と環境要因の関連解析を行った。 2)慢性疲労症候群患者の解析:名古屋大学総合診療部(伴教授)の協力を得て順次解析を進めた。予備的な慢性疲労症候群患者20例の解析を行い、有意に発現が低下しているマイクロRNA (miR-320c, miR-144, miR-1308, 及びmiR-326)を同定した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
成果1)末梢血における慢性心理的ストレス応答性のマイクロRNAを世界で初めて報告 既に、急性心理的ストレス応答マイクロRNAとして報告したmiR-16とmiR-144*は、心理的ストレスによるIFN-γとTNF-αの産生を抑制する機能が示唆された。慢性ストレスモデルとして、医師国家試験受験者25名を対象とした解析も進め、miR-16, miR-144, 及び、miR-144*に加え、miR-20b, miR26b, miR-29a, miR-126, miR-223が国家試験前、2か月以上にわたり末梢血で増加することを見いだし、誌上発表した(PLoS One)。これらのマイクロRNAは、炎症性サイトカインのmRNAや炎症関連遺伝子のmRNAを標的として、直接あるいは間接的に炎症性サイトカインの過剰な産生を抑制する重要な役割を果たしていることを明らかにでき、この分野の重要性を世界で初めて報告することができた。 成果2)慢性疲労症候群患者にみられる特徴的なマイクロRNAの発現変化を検出 慢性疲労症候群で発現が低下している4種類のマイクロRNAについては、慢性疲労症候群患者で発現が変化している515遺伝子(439遺伝子は発現亢進、76遺伝子は発現低下)に対して、Target Scanを用いて4種類のマイクロRNAの標的mRNAの検索を行うと、31遺伝子が標的同定され、炎症に関与する遺伝子が多く含まれ、他にリボゾーマルRNAの発現の亢進とニューログラニン遺伝子の発現低下が認められた。これらの結果は、異常な炎症・免疫応答が関与する慢性疲労症候群の病態解析に重要な知見を得ることができた。 以上のように、予想以上の研究成果を上げることができた。
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