脂肪肝の脂肪性肝炎への進展における遊離コレステロール(FC)の役割が注目されている。単純性脂肪肝の患者と比べ、脂肪性肝炎の患者では肝臓のFC含量が高く、肝臓におけるFCの蓄積が肝炎の原因となることが分かってきた。申請者はこれまで、マウスにおいて肝臓でコレステロールエステル(CE)を水解するリパーゼの研究を行ってきたが、その過程で、CE水解活性を持つリパーゼの in vivoでの肝臓での過剰発現がFCの増加と同時に致死的な肝炎を来す、という新たな発見をした。 次に、肝臓の内因性の細胞内TG・CEリパーゼの一つであるホルモン感受性リパーゼ(HSL)を、組換えアデノウィルスを用いて様々な食餌性脂肪肝モデルにおいて過剰発現し解析した。肝臓内脂質がTG優位に蓄積する高シュクロース食モデル、CE優位に蓄積する1.25%コレステロール(chol)食モデルいずれにおいても、HSL過剰発現は肝臓内脂質を正常化したが、明らかな肝炎は来さなかった。しかし、1.25%chol+0.5%コール酸(CA)食では HSL過剰発現により、ALTが著増、著しい肝炎を来たした。肝臓内脂肪含量の測定、肝臓内遺伝子発現の検討などから、その原因として、リパーゼの分解産物であるFCの肝細胞外への排出がCAにより障害され、FCが肝細胞内に蓄積した可能性が考えられた。 さらに、FC蓄積による肝炎の発症機序について、FCによる細胞毒性の発症機序として最近注目されるインフラマゾームなどにも着目し検討した。chol+CA食下にHSLを過剰発現すると、LacZ過剰発現群と比較して、IL-1β、IL-6が増加する一方で、TNF-αの増加は認めない、という予備的知見を得ている。FC蓄積性肝炎の発症の分子メカニズムを更に解明するためのin vitro系での解析を、今後も精力的に進めていく予定である。
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