研究課題
挑戦的萌芽研究
近年、冠動脈疾患治療には血管平滑筋細胞の増殖抑制作用を持つ薬剤溶出性ステントが用いられている。しかし、これは同時に血管内皮細胞の増殖も抑制するため、血栓症や慢性炎症を引き起こすことが問題となっている。すなわち、理想的な血管治療においては、①治療部位の血管内皮細胞を再生させ、かつ②再狭窄の主体となる平滑筋細胞の増殖を抑制することである。我々は、マイクロRNA(miR)-126に着目し研究を開始した。その過程で、このmiR-126が上記の①②を同時に満たす最適なマイクロRNAであると判断した。早期の臨床応用を視野に、ウイルスなどのベクターを使用せず、miR-126を局所で過剰発現させるための2本鎖合成RNAを設計した。22塩基のmiR-126が選択的にDicerによって切断され、マイクロRNAの機能を発揮するRISCコンプレックスに取り込まれるように、両端に塩基を付加し、27塩基の2本鎖RNAとした。また、2本鎖RNAのセンス鎖に細胞膜への透過性を上昇させるためにコレステロールを結合させ、またアンチセンス鎖(成熟miR-126となる)は分解を受けにくいように、ホスホロチオエート化した。この結果、安定的にmiR-126を細胞内で発現させることが可能となった。さらに局所への投与については、この2本鎖合成RNAを乳酸・グリコール酸共重合体(PLGA)ナノ粒子に含有させ、ステントに電気的にコーティングし、局所で徐放化できるステントを開発した。次にこのステントの効果をウサギ腸骨動脈を用いて検証した。miR-126搭載ステントにおいて、コントロールRNAと比較して、有意に再狭窄予防効果を認めた。この結果により平成26年3月7日「マイクロRNA溶出型ステント及びそれを用いた管腔治療」 として特許を出願した(特願2014-044463)。
1: 当初の計画以上に進展している
当初の計画では25年度内にはステントからの徐放化の最適化をはかるところまでが目標であったが、実際には、乳酸・グリコール酸共重合体(PLGA)ナノ粒子にマイクロRNA-126を含有させ、ステントに電気的にコーティングし、局所で徐放化できるステントの開発を行うことができた。さらに動物(ウサギ)腸骨動脈を用いてその効果を検証し、miR-126搭載ステントにおいて、コントロールRNAと比較して、有意に再狭窄予防効果を認めた。この結果により平成26年3月7日「マイクロRNA溶出型ステント及びそれを用いた管腔治療」 として特許を出願した(特願2014-044463)。
今後、このウサギ腸骨動脈の病理像を詳細に解析するとともに、ステントからのRNAの溶出プロファイルを検討する。さらにmiR-126による標的蛋白の変化も測定する。一方、miR-126の新たな標的蛋白についても検討を続ける。さらに、neoatherosclerosisの進展とともに変動する因子の解析も続け、新たな治療標的候補も特定する。本研究によりneoatherosclerosisの進展機序についても明らかになると考える。さらに早期の臨床応用をはかる目的で、試験物の製造体制を整備するとともに、安定性・安全性の評価を行う準備をする。冠動脈ステントの世界市場は、南北アメリカ、欧州、アジア、その他の4つの地域に分けられるが、アジア市場は、2011年に9億2,300万米ドル規模で、その後12.9%で成長し、2016年には17億米ドル近くに達すると予想されている。世界市場においては、2011年には71億米ドル規模であったが、その後、成長率 8.3%で推移し、2016年には106億米ドル規模に達する見通しである。現在の主流は薬剤溶出性ステントであるが、それを上回る機能を持つ製品開発を目指す。
すべて 2014 2013 その他
すべて 雑誌論文 (8件) (うち査読あり 8件) 学会発表 (13件) (うち招待講演 3件) 図書 (1件) 備考 (2件) 産業財産権 (1件)
J of Atherosclerosis and Thrombosis
巻: 21 ページ: 17-22
Circulation; Heart Failure.
巻: 7 ページ: 351-8
10.1161/CIRCHEARTFAILURE.113.000939.
Nat Commun.
巻: 4 ページ: 2883
10.1038/ncomms3883.
Am J Cardiol.
巻: 112 ページ: 767-74
10.1016/j.amjcard.2013.05.004.
J Atheroscler Thromb.
巻: 20 ページ: 585-90
Atherosclerosis.
巻: 228 ページ: 426-31
10.1016/j.atherosclerosis.2013.04.005.
J Mol Cell Cardiol.
巻: 57 ページ: 72-81
10.1016/j.yjmcc.2013.01.007.
Cardiovasc Interv Ther.
巻: 28 ページ: 45-55
10.1007/s12928-012-0136-x.
http://tmsystem.tara.tsukuba.ac.jp/?p=2424
http://kyoto-u-cardio.jp/kisokenkyu/metabolic/