研究課題
挑戦的萌芽研究
本年度は低酸素負荷肺高血圧症(HPH)モデルマウスで、モノクローナル抗IL-6受容体抗体MR16-1によるIL-6シグナル阻害がHPH発症を抑制する分子機序を検討した。①HPHモデルマウスでのMR16-1の効果について:C57BL6/Jマウスを低酸素負荷曝露すると、肺でIL-6mRNAが負荷後1-2日目をピークに増加して負荷後7日目以降はベースレベルまで下がった。C57BL6/Jマウスを低酸素負荷曝露する直前からMR16-1またはrat IgGを静注した後、4週間にわたり毎週MR16-1またはrat IgGを腹腔内投与すると、rat IgG群に比してMR16-1群では有意に右室収縮期圧の増加が抑制され、右室(RV)/左室(LV+S)重量比も有意に増加が抑制されて、細小動脈の中膜肥厚(medial wall thickness)もrat IgG群に比べて有意にMR16-1群で抑制されていた。②HPHモデルマウスでのMR16-1によるIL-6シグナル阻害のマクロファージに対する影響の検討:免疫組織学的解析により、HPHモデルマウスでのCD68陽性マクロファージの動態を解析した所、低酸素負荷によるCD68陽性マクロファージの肺組織へ集積がrat IgG群に比してMR16-1群では有意に抑制されていた。このマクロファージの内訳を検討すると、Fizz1やMRC1などのM2マクロファージマーカー陽性のマクロファージがrat-IgG群のHPHモデルマウス肺では増加していたが、MR16-1群では有意に抑制されていた。③HPHモデルマウスでのTh17細胞の動態:低酸素負荷後の肺組織へのTh17細胞(CD4/IL-17)二重陽性細胞)の分布に関してFACSにより検討したところ、rat IgG群ではTh17細胞が低酸素負荷後の肺組織で有意に増加したが、MR16-1群では有意に抑制されていた。肺組織のIL-17の発現も低酸素でratIgG群では誘導されて、MR16-1群では有意に抑制されていた。
2: おおむね順調に進展している
IL-6シグナル阻害により低酸素誘発性肺高血圧の発症が有意に抑制されることを確認し、その分子機序にはM2マクロファージの肺組織への動員やTh17細胞の動員が関与することを示唆するデータを得ている。低酸素誘発性肺高血圧の発症過程において、これまでマクロファージのM2極性化形成が強く関わる可能性が他グループからも報告されているが、M2極性化形成の上流シグナルは不明であったが、今回の研究でIL-6シグナルがその制御にかかわる可能性を示唆する結果を得たため、本年度は概ね順調な研究の進展したと考えられる。
今後は上記結果を背景として、低酸素誘発性肺高血圧の発症機序を明らかにしたい。特に、IL-6シグナルの下流にあると想定される、Th17細胞とM2マクロファージのクロストークの有無に焦点を当てて、今後詳細な検討をしていきたい。この関係が明らかになれば、肺高血圧症の分子基盤の一端が解明されると期待される。
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http://www.med.osaka-u.ac.jp/pub/cardiology/27research/2751res.html