研究課題
挑戦的萌芽研究
Prolyl hydroxylase domain protein (PHD)の主要なアイソフォームであるPHD2のfloxed マウスとlysozyme M-creマウスを交配することにより骨髄系細胞特異的なPHD2欠損マウスを作製した。骨髄系細胞特異的PHD2欠損マウスでは特別な異常を認めなかった。そこで、アンジオテンシン(Ang)IIと一酸化窒素合成酵素阻害剤を投与したところ、野生型マウスと比べて骨髄系細胞特異的PHD2欠損マウスでは、心肥大、心臓線維化、左室収縮能の低下が軽減していた。また大動脈中膜の肥厚や外膜へのマクロファージの浸潤の程度も軽減していた。研究成果は論文として報告した(Ikeda J et al. J Am Heart Assoc. 2013)。この骨髄細胞特異的PHD2欠損マウスを用いて、横行大動脈縮窄による圧負荷心肥大モデルを作成した。左室肥大について心臓超音波検査、心臓重量/脛骨長比、心臓の組織学的解析を行った。横行大動脈縮窄により野生型マウスと骨髄系細胞特異的PHD2欠損マウスともに心筋の肥大を来した、両群間で有意差は認めなかった。左室前壁+後壁厚(mm): Sham 群1.90 野生型マウス2.26、骨髄細胞特異的PHD2欠損マウス2.24, 心臓重量/脛骨長比(mg/mm): Sham 群6.0, 野生型マウス7.91、骨髄系細胞特異的PHD2欠損マウス7.95。 その他、心筋細胞の横断面面積、線維化(Masson Trichrome染色)・炎症細胞の浸潤(MAC2陽性細胞の免疫染色)の程度にも差を認めなかった。横行大動脈縮窄による圧負荷心肥大モデルにおいて、脳内の交感神経の中枢である室傍核および延髄吻側腹外側野におけるミクログリアの数および形態学的な評価を行った。ミクログリア特異的な抗体とされるIba1陽性細胞数をカウントした。また細胞突起の形状の変化を評価した。野生型マウスと骨髄系細胞特異的PHD2欠損マウスにおいて、ミクログリアの数・形態に有意な差は認めなかった。
3: やや遅れている
骨髄系細胞特異的なPHD2欠損マウスを作製し、アンジオテンシンIIと一酸化窒素合成阻害剤投与による心肥大、心臓線維化などが野生型マウスより軽減していることを報告した(Ikeda J et al. J Am Heart Assoc. 2013)。したがって、研究には一定の成果があったと考えている。この骨髄系細胞特異的なPHD2欠損マウスを用いて、横行大動脈縮窄による圧負荷左室肥大モデルを作成した。しかし、心重量/頸骨長比、心筋肥大や心臓の線維化などを評価したところ、野生型マウスと有意差を認めなかった。また行大動脈縮窄による圧負荷左室肥大モデルにおいて脳内の室傍核や延髄吻側腹外側野におけるマイクログリアの数や活性化も検討したが、有意差を認めなかった。これらの結果から、これ以上の解析を行っても新たな知見を得ることはできないと判断し、このモデルでの検討を中止した。新たな心臓病モデルを作成することとしたため、最初の予定からは遅れる状況となった。そのため、現時点での達成度は「やや遅れている:C」とした。
骨髄系細胞特異的なPHD2欠損マウスに作成した横行大動脈縮窄モデルでは野生型マウスと比べて左室肥大に差を認めなかったため、左室肥大に差を認めたアンジオテンシンIIと一酸化窒素合成阻害剤投与による左室肥大モデル(Ikeda J et al. J Am Heart Assoc. 2013)を用いて、室傍核や延髄吻側腹外側野のマイクログリアの活性化を評価する。現在の横行大動脈縮窄モデルは、心肥大を生じるが心不全までには至らない程度の圧負荷を行っている。そこで、縮窄の程度を強化し、心不全となるモデルを作成し、まず左室肥大や、心不全の程度に差を認めるか心エコー等を用いて検討する。左室肥大や左室収縮能の低下などに差があれば、室傍核や延髄吻側腹外側野のマイクログリアの活性化を評価する予定である。冠動脈結紮による、心筋梗塞モデルを作成し、慢性期に心不全モデルを得る。この心不全モデルにおいて、左室機能低下や左室拡大が骨髄系細胞特異的なPHD2欠損マウスにおいて野生型マウスより改善しているかを検討する。改善があれば室傍核や延髄吻側腹外側野のマイクログリアの活性化を評価する。
すべて 2013 その他
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J Am Heart Assoc.
巻: 2 ページ: e000178.
Circulation
巻: 127 ページ: 2078-2087
https://www.med.kyushu-u.ac.jp/cardiol/kyoshitsu/blood/index.html