循環器系疾患の発症には性差がある。一般的に女性は虚血性心疾患の罹患率が低いことや、心不全や肥大型心筋症などの罹患年齢が高いことが疫学的に知られている。この理由として女性ホルモンが心筋・血管保護的に働く可能性が報告されているがその具体的な機序はいまだ不明な部分が残されている。近年、次世代シーケンサーや質量顕微鏡法などの新規解析手法が開発され注目を集めている。本研究では、性差を呈する家族性拡張型心筋症と動物モデルを中心にしてこれら新技術を心筋疾患に適用し、希少モデルでの性差誘因機序を解明することにより、循環器系疾患の性差をより網羅的にそしてより根本的に理解し、心疾患医療に新しい活路を開くことができると考えた。 まず、性差を呈する家族性拡張型心筋症患者の遺伝子変異を次世代シーケンサーで解析を行った。その結果、ラミン遺伝子異常が原因であると判明した。同患者からの心筋生検サンプルを質量顕微鏡法により、解析を行ったところ、生体構成リン脂質のフォスファチジルコリンの一種が患者検体で低下していることが判明した。また、性差誘因機序として性ホルモンに着目し、検討を進めた。その結果、通常の心不全では認められないアンドロゲン受容体の心筋核内への移行が認められた。現在ラミンKOマウスを入手し、組織から抽出したRNAおよびタンパクを解析し、性差誘因機序をさらに詳しく検討している。今後も引き続き検討を継続し、心疾患医療の進展に貢献したい。
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