研究概要 |
本年度は、腎虚血再灌流による急性腎不全モデルを用いて、障害部位に限局した代謝変化を質量顕微鏡法により網羅的に解析した。 Sham群において、脂肪酸組成の異なるフォスファチジルコリン(PC)が腎門部を中心に同心円状に分布しており、特に、皮質と髄質ではPC種が全く異なることを見出した。虚血再灌流傷害を惹起して、6時間と24時間後に同様の解析を施行したところ、各PC種はダイナミックに増減し、腎局所における傷害や代謝の変化を反映していると考えられた。特に、腎傷害の強い非髄境界部に着目したところ、PC(16:0/18:0), PC(16:0/18:1), PC(16:0/18:2), PC(18:0/18:2)が増加する一方、PC(16:0/22:6)は減少した。 次に、虚血再灌流傷害の後、経時的に腎臓をサンプリングし、遺伝子発現プロフィールを網羅的に解析した。その結果、PCの量的制御に関わる2経路(PC新規合成系とPE-PC変換系)の代謝酵素群の協調的な発現上昇が認められた。即ち、PC新規合成系としてChka/Chkbおよび律速酵素であるPcyt1a/Pcyt1b、PE-PC変換系としてPemtの発現がそれぞれ有意に上昇した。興味深いことに、PCをPSに代謝するPtdssの発現は有意に減少し、腎全体としてはPC量を増加させる応答が示唆された。以上のように、腎虚血再灌流傷害により、PCが量的、質的にダイナミックに変化することが明らかとなり、腎障害における意義が示唆された。
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