腎臓は後腎間葉と尿管芽の2つの組織から発生する。後腎間葉にはネフロン前駆細胞が存在し、これが糸球体、尿細管など多系統のネフロンに分化していく。我々は以前に多能性幹細胞からネフロン前駆細胞を誘導し、糸球体と尿細管を含む3次元の腎臓組織の試験管内構築に成功した。しかし腎臓形成はネフロン前駆細胞単独で起こるわけではなく、尿管芽との相互作用が必須である。尿管芽は、ネフロン前駆細胞からの作用によって分岐するとともに、FGF9やWnt9bを分泌することによって、ネフロン前駆細胞を増殖させつつ分化させてネフロンを形成する。よって本計画は、複雑な分岐能とネフロン誘導能をもつ機能的尿管芽を未分化細胞から試験管内で分化させることを目的とした。
尿管芽が緑色蛍光蛋白(GFP)で蛍光発色するマウスのGFP陽性細胞の遺伝子発現をマイクロアレイで解析し、ウルフ管から尿管芽に向けた各分化段階におけるマーカーとなるべき遺伝子群及び各段階におけるシグナル分子の違いを同定した。これを指標にして、胎生初期の中胚葉から尿管芽への誘導を試みた。また上記マウスの胚盤胞からES細胞を樹立したので、ここから初期中胚葉、ウルフ管を経由して尿管芽への誘導法を開発中である。これを確立した後は、ヒトiPS細胞から機能的尿管芽の誘導を目指すことになる。既に開発済みのヒトネフロン前駆細胞誘導法を組み合わせることによって、より生体に近い腎臓を試験管内で作成したい。
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