研究課題
挑戦的萌芽研究
ゲノムの守護神p53は、癌抑制機能だけでなく、肥満、糖尿病、NASHなどの生活習慣病や老化関連疾患にも重要な役割りを果たすが、生活習慣病病態におけるメカニズム解析が立ち遅れている。今回、エピゲノム・トランスクリプトーム解析とメタボロミクスを融合させて、p53の新たなエネルギー代謝制御機構と病態との関わりにアプローチした。NASH-HCC発症のマウスモデルを樹立し、グルタミンとROSの制御システムが大きく変動していることを見出した。さらに、メタボローム解析を行い、解糖系中心代謝酵素とグルタミン代謝調節機構の変化に伴うメタボライトの変化が観察され、病態に応じたエネルギー代謝とROS制御の役割が示唆された。更に、組織での遺伝子発現解析からp53の多彩な生理機能が、NASHからHCC発症の病期に応じて、大きく異なっていることが明らかとなった。現在、p53 conditional KOマウスを作成し、Alb-Cre・AP2-Cre・Insulin-Creと掛け合わせ、生活習慣病における臓器特異的p53の役割をin vivoで検証するモデルを樹立しつつある。また、p53やその下流遺伝子として、NASH-HCCの病態で重要な役割を担うと推定される遺伝子群について、尾静脈からのアデノウイルスのshRNAデリバリー(過剰発現)を用いて、p53とその下流の代謝調節分子群のin vivoでの役割を明らかにしている。
2: おおむね順調に進展している
当初の予定であるNASH-HCC発症の動物モデルを樹立した。加えて、それらの組織を用いて遺伝子発現解析とメタボローム解析を行い、p53下流遺伝子といくつかの代謝調節pathwayが重要な役割を果たす事を見出した。更に、in vivoでの肝臓特異的遺伝子発現制御システムを樹立し、また、p53-conditional KOマウスの作成に成功した。これらは、当初の予定を概ね順調に進展させ、conditional KOマウスについては予想以上の成果を見出している。
(1)CE-TOFMSによるメタボローム解析を用いた転写因子p53とその下流の代謝酵素分子群による細胞内メタボライトのダイナミクス解析。癌細胞では解糖系が亢進し、TCAサイクルの抑制と嫌気的経路からエネルギーを利用する変化が生じており、ワールブルグ効果と呼ばれている。p53がこれらの酵素反応系を調節することが明らかにされつつある。これまで同定されてきた機能的代謝制御分子候補に対して、細胞内代謝作用機序・エネルギーバランスに及ぼす影響についてメタボローム解析を用いて動的に捉える。具体的には、前述したsh-RNAノックダウンシステムで、候補遺伝子をサイレンシングし、代謝作用機序・エネルギー調節作用起点を細胞種類ごとに比較検討する。(2)マウス肥満モデル/NASHモデルにp53 conditional KOマウスを組み合わせたを用いたin vivoでの有用性/実証的解析。これまで同定された遺伝子や分子の機能解析を引き続き行うが、実際に同定された分子は、基本的に細胞レベルでの代謝調節因子として機能する可能性が考えられる。高脂肪食負荷による肥満マウスモデルとNASHモデルマウスを用いて、脂肪組織・肝臓・血管内皮において、それらの代謝調節関連遺伝子が、実際の病態モデルの個体レベルで変化しているかの発現解析を行なう。また、我々は、p53更に、組織メタボローム解析を行い、細胞レベルと組織レベルでの代謝動態を比較することで、組織特異的代謝変化と代謝・エネルギーバランス調節分子の関連づけを行い、ターゲット遺伝子の有用性を検証する。
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Proc Natl Acad Sci U S A
巻: 110(46) ページ: 18626-18631
10.1073/pnas.1311100110
巻: 110(12) ページ: 4691-4696
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