研究課題
挑戦的萌芽研究
本研究においては、従来の癌ワクチンの弱点であった腫瘍特異抗原のセルフトレランスの回避を、乳癌関連抗原であるHER2および強力なヘルパーT細胞誘導アジュバント活性をもつAg85Bの両遺伝子を搭載した医薬品スペックPIV2ベクターを用いて細胞性免疫および液性免疫の両面からの相乗的アプローチにより克服し、乳癌の転移抑制効果をもつ新規の経鼻噴霧型抗腫瘍ワクチンの確立をめざした。2遺伝子搭載型のベクター作製に先立ち、まず、Ag85B遺伝子ならびにHER2遺伝子それぞれを導入したPIV2ΔMベクターの作製を試みた。Ag85B遺伝子を導入したPIV2ΔM/Ag85Bベクターは回収できたが、HER2遺伝子を導入したPIV2ΔMベクターは回収できなかった。BALB/cマウスに4T1-luc細胞(300,000個/匹)を尾静脈に静注し転移乳癌様モデルマウスを作製した。4T1-luc細胞移植後14日目には、全てのマウスで乳癌の肺転移様所見が観察された。また、平成26年度の実験計画に向け、乳癌の原発部位である乳腺からの自然転移性をもつ細胞のクローニングを行い、その機能をもつ細胞株を得た。PIV2ベクター経鼻投与による乳癌の治療・転移予防効果の検討においては、目的とするHER2遺伝子を搭載したPIV2ΔMベクターが完成できなかったため、相乗効果の検討はできなかった。そこで、作製できたAg85B遺伝子のみを搭載したPIV2ΔMベクターを用いて、上記の転移乳癌様モデルマウスに経鼻投与し、乳癌の転移予防効果を検討した。その結果PIV2ΔM/Ag85Bワクチンを経鼻投与したマウス群において、ワクチンを投与しなかったマウス群と比較し、肺における結節の数が明らかに減少し、特にワクチンをhigh doseで経鼻投与したマウス群においては著しくその数が減少し、肺局所における腫瘍転移予防効果が認められた。
3: やや遅れている
乳癌治療・予防用ワクチンベクターのコンストラクト作製において、主要遺伝子導入サイト(Not I)へ挿入予定の2種の目的遺伝子のうちHER2遺伝子の挿入が逆向きばかりのプラスミドしか得られず困難をきわめた。そこで、クローニングに使用するコンピテントセルを数種変えて形質転換を行い、HB101を用い極めて小さな大腸菌のコロニーをピックアップすることで、研究期間終盤に、ようやくHER2遺伝子を搭載したベクター作製用プラスミドを得ることができた。その解決に時間を要したために、目的とする抗腫瘍ワクチンの完成が当初の計画と異なり研究期間内に実現できなかった。そのため予定していたHER2搭載抗腫瘍ワクチンベクターの有効性評価については実施できなかった。しかしながら、研究期間内に得られたもう1つの目的遺伝子であるAg85Bを搭載した抗腫瘍ワクチンベクター(PIV2ΔM/Ag85B)のみの転移乳癌様モデルマウスへの経鼻投与により、著しい転移抑制効果がえられた。この知見により、HER2搭載抗腫瘍ワクチンベクターとの同時投与もしくは2遺伝子搭載型抗腫瘍ワクチンベクター経鼻投与による転移乳癌に対する相乗的抑制効果の期待が高まった。
本研究計画では、乳癌関連抗原であるHER2およびTh1を誘導するアジュバントであるAg85B遺伝子の同時搭載型PIV2ベクターの構築を想定していたが、本研究過程で得られた遺伝子発現量の点からの実用性を考慮し、2遺伝子搭載型ワクチンではなく、2種混合経鼻噴霧型抗腫瘍ワクチンへ転換が必要であると考えられる。また、2遺伝子搭載型ワクチンベクター作製を遂行するのであれば、PIV2の特性上挿入位置を変える必要性がある。そこで、今後の展開として、早急にHER2遺伝子を搭載したPIV2ΔMもしくはPIV2ΔHNベクターを作製し、Ag85B遺伝子を搭載したPIV2ΔMベクターの2種同時投与による相乗的効果を検討し、2種混合経鼻噴霧型抗腫瘍ワクチンとしての有効性ならびに(1) ELISPOTアッセイを用いたTRP2に対する特異的CD8+T細胞レスポンス、(2)ELISA等を用いたTRP2特異的抗体価測定によるB細胞レスポンス、(3)病態部位および各組織に浸潤する細胞等の病理学的解析ならびにFACS等による解析、(4)マウスへの腫瘍免疫を担う細胞に対する抗体の腹腔内投与による抗腫瘍効果のメカニズム解析を行っていく予定である。また、PIV2ベクターの投与量ならびに投与回数を変えて抗腫瘍効果を検討し、さらに、皮下および経鼻からの複合投与による抗腫瘍効果を検討する予定である。並行して挿入位置を変えた2遺伝子搭載型ワクチンベクターを作製し、同様の実験を行う予定である。
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