研究課題
抗腫瘍効果をもつと考えられるHER2遺伝子を搭載したhPIV2ΔMベクターの完成が遅れたため、期間内にこのベクターに関する当初の計画は実行できなかった。そこで、作製できたTh1移行のアジュバント活性をもつAg85B遺伝子を搭載したhPIV2ΔMベクターの経鼻投与による乳癌に対する抗腫瘍効果について検討した。fat pad に乳癌細胞を移植したマウスにおいて、hPIV2ΔM/Ag85Bワクチンをhigh doseで投与したマウス群においも、ワクチンを投与しなかったマウス群と同様に、原発腫瘍が経時的に増殖し、その抗腫瘍効果は認められなかった。しかしながら、腫瘍細胞を静注した肺転移モデルマウスにおいては、該ワクチンを投与したマウス群において、ワクチンを投与しなかったマウス群と比較し、肺における結節の数が明らかに減少した。特にワクチンをhigh doseで投与したマウス群においては著しくその数が減少し、肺局所における乳癌転移抑制効果が認められた。そのメカニズムを解析するために、肺におけるサイトカインやケモカインの発現について検討した。high doseでワクチンを投与したマウス群ではワクチンを投与しなかったマウス群と比較してIL-17、IL-2、L-12(p40)、CCL20の発現が高く、一方、CCL2、IL-18、IL-10、IP-10、 GM-CFSの発現が抑制されていた。特に、メラノーマの肺転移抑制への関与が示唆されているIL-17は約180倍の値を示した。また、乳癌の肺転移をプロモートすることが示唆されているCCL2の発現が約30倍抑制されていた。以上の結果から、ワクチンを投与した群においてCCL2発現が著しく抑制されており、乳癌の肺転移に関与するCCL2の経路を制御することでその転移を抑えることが示唆された。また、遺伝子免疫治療用ベクターとしての機能性も確認できた。
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