これまで申請者の研究室では、細胞間情報伝達物質として未知の生理活性ペプチドを数多く発見し、新たな生体調節機構を明らかにしてきた。近年では、成長ホルモン分泌促進因子受容体の内因性リガンドとして、グレリンをラット胃より発見し、その構造決定に成功している。グレリンは成長ホルモン分泌促進作用だけでなく強力な摂食亢進作用を有することが明らかとなり、現在は治療応用へと研究を展開している。 グレリンの3番目のセリン残基は、中鎖脂肪酸であるオクタン酸修飾を受けている。この修飾基はグレリンの活性発現に必須であり、グレリンO-アシルトランスフェラーゼにより修飾される。グレリンは脂肪酸修飾を受けた唯一のペプチドホルモンであり、脂肪酸修飾酵素の種類を考慮すると、未知の脂肪酸修飾ペプチドの存在が示唆される。本研究では脂肪酸修飾を有する新規生理活性ペプチドを同定し、細胞や個体レベルでの機能解析を行い、新たな生体調節機構を明らかにすることを目的とする。 昨年度、脂肪酸修飾を認識する抗体によるアフィニティ精製をラット組織抽出物より実施した。対象とする組織より抽出したペプチド画分は、脂肪酸修飾ペプチドの不安定性を考慮して、抽出後直ちに抗体アフィニティ精製進めた。平成26年度は、溶出画分について高速液体クロマトグラフィーにて分離し、質量分析計を用いた構造解析を実施した。その結果、脂肪酸修飾構造を有する新規ペプチドは同定できなかった。しかし、本実験系の精度を検証するために併せて実施した、ラット脳抽出物よりアフィニティ精製した画分のグレリン免疫活性測定では、脂肪酸修飾を有するものの、グレリンとは異なる免疫活性を有するペプチドの検出に成功した。現在、構造解析に向けて精製を進めている。
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