研究課題
挑戦的萌芽研究
これまでのマウスモデルの解析により、免疫学の解明は大きく進んできた。しかしこれは主に基礎免疫学研究でのことであり、臨床応用に眼を転じるとマウスの免疫学がヒト免疫疾患に結び付かないことがまま見受けられる。すなわちモデルマウスで有効な治療法がヒトでは有効でないことが多い。一因としてモデルマウスの病理像はヒト疾患と類似しているものの、アジュヴァント免疫による自己免疫誘導や、偏った遺伝素因上での自然発症など、ヒト疾患発症機構が必ずしも再現できていないことが考えられる。この問題点を克服するために、本研究ではヒトで病態を形成しているT細胞を同定し、その抗原特異的レセプターをex vivoで、またヒト化マウス上で詳細に解析する解析系を構築し、ヒト疾患の発症機構を明らかにすることを目的とする。今回は関節リウマチ(RA)末梢血および関節で増殖しているT細胞について、単一細胞解析と次世代シークエンス(NGS)を組み合わせることで定量的な解析法を確立した。この解析法により、(1) RAおよび健常人の末梢血CD4陽性T細胞中に数%を占める高度に増殖したクローン(Expanded Clone:EC)が存在し、RAでは健常人よりも増殖の程度が強いこと、(2) 末梢血中のECはTh1の分画に集積していること、(3) RA関節にもECが存在し、末梢血よりもさらに高頻度であることが分かった。さらに単一細胞由来のmRNAの発現解析をNGSで行い、 (4) RA関節に存在するECはTh1を規定する転写因子であるTbx21を発現していることも明らかとした。今後この手法の検体数を重ねて、ECの頻度と疾患活動性、治療抵抗性などとの関連、ECの抗原反応性などを検討することにより、RAの病態の解明を進めてゆく。
2: おおむね順調に進展している
本研究により、関節リウマチ(RA)末梢血および関節で増殖しているT細胞について、単一細胞解析と次世代シークエンス(NGS)を組み合わせることで定量的な解析法を確立した。この解析法により、(1) RAおよび健常人の末梢血CD4陽性T細胞中に数%を占める高度に増殖したクローン(Expanded Clone:EC)が存在し、RAでは健常人よりも増殖の程度が強いこと、(2) 末梢血中のECはTh1の分画に集積していること、(3) RA関節にもECが存在し、末梢血よりもさらに高頻度であることが分かった。さらに単一細胞由来のmRNAの発現解析をNGSで行い、 (4) RA関節に存在するECはTh1を規定する転写因子であるTbx21を発現していることも明らかとした。この手法は従来別個に行われていた遺伝子発現解析とT細胞クロナリティ解析を、同時に進めることができる点が画期的といえる。従来単一細胞解析、T細胞レパトア解析やマイクロアレイによる遺伝子発現解析は独立して行われていた。その場合、Th1など特定のT細胞サブセットで発現解析を行い、そのサブセット内で優位なクローンは同定できるが、そのクローン自体の正確な遺伝子発現は分からず、全体の中での頻度も分からなかった。T細胞が本来それぞれ別個のT細胞レセプター(TCR)を発現し、独立して抗原刺激を受けることを考えた場合、クローンごとの正確な遺伝子発現が分からないことは、ある意味致命的な限界であった。本手法では、RA生体内で増殖しているクローンのある時点での性質を統合的に把握することが可能としたことで、その限界を克服する手掛かりになると考えられる。
この手法はRA生体内で増殖しているクローンの、ある時点での性質を統合的に把握することを可能とした。今後は症例数を増やし、DAS28などの疾患活動性、罹病期間、抗リウマチ薬や生物学的製剤への治療反応性などを組み合わせつつ、治療前後などに経時的に解析することで、増殖しているT細胞の病態への関与を検討していく。またECのTCRをレトロウイルスベクターを用いてCD4陽性T細胞上に再構築し、TCR自体の自己反応性や抗原特異性を検討してゆく。また免疫不全NOGマウスにECのTCRを再構築したCD4陽性T細胞を移入し、関節炎発症への寄与を検討していく。また関節にはECのように末梢血では増殖せず、関節でのみ増殖しているクローンが存在する。これらについても、単一細胞レベルでの発現遺伝子解析を行い、TCRの再構築による抗原特異性、病態形成性への関連などを検討する。RAではシトルリン化タンパクに対する抗体の出現が特徴的であるが、最近、RAで重要な疾患感受性遺伝子であるMHCクラスII分子のHLA-DRB1のP4ポケットのシトルリンへの結合性が高いことが報告されており、これらのクローンがシトルリン化エピトープに反応するかどうかも検討する。これらの解析により、RAの病態に対するCD4陽性T細胞の寄与が解析できると考えられる。ヒト個体の解析であり、検体間のばらつきは大きいが、動物モデルではなく疾患そのものの解析であり、得られる知見は臨床に直結することが期待される。
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