本研究ではT細胞レセプター(TCR)を手掛かりとして、自己抗原特異的なT細胞免疫応答の解析を目的とした。まず関節リウマチ(RA)の自己抗原BiPに特異的なT細胞レセプターの解析を試みた。BiPエピトープを提示するHLA-DRテトラマーを作製し、テトラマー陽性細胞を単一細胞レベルで回収し、cDNAからTCRを同定した。同定した中で2種類のTCRをヒトCD4陽性T細胞に発現させたが、BiPおよびエピトープへの反応性が確認できなかった。 そこで次にテトラマーによる解析ではなく、細胞のTCR自体の次世代シークエンス解析による、RAの抗原特異的免疫応答の解析を試みた。RA患者末梢血と滑膜のCD4陽性T細胞のシングルセルトランスクリプトーム解析とTCRの配列解析により、増殖傾向の強いCD4陽性T細胞クローンを同定した。滑膜に浸潤傾向が強いCD4陽性T細胞クローンではCXCR4の発現、Th1型の遺伝子発現の亢進および老化した表現型を認めた。これらのクローンは末梢血では通常Th2に分類される、CXCR3陰性CCR6陰性CXCR5陰性の分画に集積していた。クローナリティを見ると、メモリーCD4陽性T細胞、特にCXCR3陰性CCR6陰性CXCR5陰性の分画が最も高いという結果であった。並行してマルチカラー解析を行ったところ、メモリーT細胞のCXCR4陽性細胞の割合はRAの病勢と相関を示し、今回同定した増殖したクローンが疾患の本質に関与していることが推測された。本研究で次世代シークエンスという新しい手法を単一細胞発現遺伝子解析とTCRレパトア解析に応用することで、RAの病態に関与するT細胞クローンの動態の知見が得られた。
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