研究概要 |
1.好中球シグナル伝達経路の解明:最小刺激にて分離した健常者及び患者好中球を用いて,FcγR(CD16,CD32,CD64)シグナル伝達経路について検証を行った。好中球はFcγRを発現しIgGはそのFc部分で会合するために、それぞれに対する抗体はF(ab’)2あるいはF(ab)として用意した。LPSとの共刺激により微弱ではあるが活性酸素産生が認められることが確認され、現在刺激後の細胞内チロシンリン酸化を検出している。 2.局所浸潤型好中球からの生理活性物質産生の検討:健常人、NEMO異常患者、NADPH oxidase異常患者の好中球をG-CSFで培養し局所浸潤型好中球を誘導し、ELISAあるいはLuminex法にてサイトカイン産生を解析した。健常人と患者において、IL-4, IL-8などの産生に差を認めた。 3.膜透過性ペプチド(CPP)を用いた好中球プライミングや異常反応の制御:細胞質内滞在型MALを精製し、健常者好中球に導入することにより、そのROS産生抑制効果を検証した。 4.iPS細胞からの好中球分化誘導と機能解析:東京大学医科学研究所大津真博士の協力のもとiPS細胞から好中球への分化誘導法についてその手技を修得した。現時点ではまだ遺伝子導入などによる分化の微調節は行われていないが、活性酸素産生などの機能を発揮する好中球が得られている。 5.敗血症における好中球機能解析:本年度は平成26年度を先取りする形で、敗血症における好中球機能解析を開始した。具体的には活性酸素産生、ST2、CXCR2、PILRαの発現、細胞内基質のリン酸化、血清サイトカインなどである。その結果、敗血症患者好中球がプライミング状態にあり、また表面サイトカイン・ケモカイン受容体発現に異常を認めることなどが明らかになった。
|
今後の研究の推進方策 |
1.好中球シグナル伝達経路の解明:健常人および患者好中球を用いてシグナル伝達について継続して解析を行う。FcγRシグナルについては関連チロシンキナーゼを同定する。PI3Kでは関与するクラス(クラスIA, IB, IIα,β,γ)を明らかにし、MALではリン酸化や細胞内局在についての解析も加える。 2.好中球からの生理活性物質産生の検討:引き続き(シグナル関連分子に変異のある)患者検体を用いて局所浸潤好中球の機能について解析する。その中から特徴的なサイトカイン産生を誘導するシグナル経路を明らかにする。 3.CPPを用いた好中球プライミングや異常反応の制御:過剰な好中球プライミングや異常反応をタンパク導入で制御することを試みる。MALの様々な受容体シグナルにおける機能についても解析する。 4.iPS細胞からの好中球分化誘導と機能解析: 本年度は、iPS細胞分化の各段階でC/EBPα, β, Gf11, PU.1などの転写因子を導入することで、分化段階に特徴的な顆粒の発現を促進できるかを検討する。得られた好中球は、その活性酸素産生能、NETs形成能、接着因子発現などについて機能解析を行う。 5.敗血症における好中球機能・シグナル異常とその是正に関する検討:敗血症における好中球機能については、細胞内基質リン酸化と活性化チロシンキナーゼの同定などを目標に検討を行う。シグナル伝達分子の中では特にBTKの発現やリン酸化、MALの細胞内局在を検討する。これらにより問題となる部分が明らかになれば、それを是正するCPP-組換えタンパク質を作成して、その効果を検証する。
|