研究課題
てんかんの病態は長い間不明であったが、最近の分子生物学の発展に伴い遺伝子異常が発見されるようになった。単一遺伝子異常によるてんかんであれば、理論的にはその遺伝子を修復することにより根治することができるはずである。生きている細胞の遺伝子を変更、すなわち修復することは、かっては不可能であった。しかしながら、最近いくつかの革新的な分子生物学的技術により、それが可能となった。単一遺伝子異常によるてんかんでドラベ症候群は、ナトリウムチャネルをコードする遺伝子、SCN1Aの異常による起こる、単一遺伝子異常による難治性のてんかんである。しかしながら、このナトリウムチャネルの機能異常がなぜこの難治性てんかんを引き起こすのかが分かっていなかった。我々はドラベ症候群の患者より樹立したiPS細胞から神経を分化させすることに世界に先駆け成功した。その細胞の電気活動を詳細に調べることにり、異常があるナトリウムチャネルは主に、抑制神経に発現していること。ナトリウムチャネルの異常により、この抑制神経の活動電位が低下して、相対的な神経興奮、すなわち激しいてんけん発作を来すことを明らかにすることができた。さらにこの細胞を用いて、SCN1Aの異常をTALENと呼ばれる遺伝子修復技術により、正常化することに成功した。これに対応する形で、正常対照者より樹立iPS細胞にドラベ症候群の患者のSCN1Aの異常を同じ方法で導入することに成功した。現在次世代シークエンサーを用いて、他の部分の遺伝子に偶発的に変異が入っていないかを確認している。さらに、遺伝子異常が修復されたiPS細胞より神経細胞を誘導分化させ、病態が回復しているか、健常者iPS細胞からより樹立した神経細胞の神経活動と同じであるか等を評価中である。
1: 当初の計画以上に進展している
計画と同様にてんかん患者よりiPS細胞を樹立後、神経細胞へ誘導分化することができた。このため、その神経細胞を用いて、世界に先駆けてヒト神経細胞を用いてドラベ症候群の病態がGABA系神経細胞の活動電位の減弱によることを世界に先駆けて明らかにするこができた。これの知見により、ドラベ症候群の病態は抑制神経系の不全によることが証明された。今までSCN1Aの異常を持つマウスで観察されていた病態をヒトで再現した事例となった。さらに、ドラベ症候群ではナトリウムチャネル阻害効果がある、抗てんかん薬は患者の症状を悪化させることが知られていたが、その理由がこれらに抗てんかん薬は抑制神経系の不全をさらに悪化させることによることを明確に示すことができた。ドラベ症候群のiPS細胞の遺伝子修復をTALEN技術で成功することができた。知りうる限り、ドラベ症候群のiPS細胞の遺伝子修復例は他に報告がない。これにより、本研究の最終目的である、難治性てんかんの遺伝子修復による治療開発へ大きく近づいたことになった。さらに逆に健常者由来のiPS細胞にドラベ症候群の任意の遺伝子異常を導入することに成功した。これにより、希少疾患であるドラベ症候群の患者よりiPS細胞を樹立する要なく、様々な変異によるドラベ症候群の病態研究が行えるようになったと言える。また、新手法により、iPS細胞をGABA作動性神経のみならず、グルタミン酸作動性神経に分化誘導することもできるようになっている。
遺伝子異常を修復したiPS細胞から神経細胞を樹立して、そのGABA系細胞の特性が健常者から樹立したiPS細胞からの神経細胞のそれと同様に回復しているか現在確認中である。逆に正常細胞に変異を導入しており(人工患者細胞)、この人工患者細胞のGABA系細胞の特性が患者のそれと一致しているか確認中である。SCN1Aの異常を同時に現在複数の患者由来のiPS細胞の遺伝子修復を継続的に行う予定である。さらに現在は、iPS細胞をGABA作動性神経のみならず、グルタミン酸作動性神経に分化誘導することもできるようになっており、系統の違う神経細胞でも同様の実験を行う。
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